「馬鹿げた戦争を今すぐ止めろ」。アメリカのトランプ大統領は就任早々、ロシアに異例の強い警告を発した。ロシア国内は深刻なインフレに直面しているが、プーチン大統領は戦争継続に強気の姿勢を崩さない。その実態を、まるで存在しない体力を絞り出す「コカイン経済」だと専門家は指摘する――。
2025年1月28日、ロシアのプーチン大統領、サマラにある無人航空機システムの研究・生産センターを訪問
写真=Sputnik/共同通信イメージズ
2025年1月28日、ロシアのプーチン大統領、サマラにある無人航空機システムの研究・生産センターを訪問

トランプ氏が「馬鹿げた戦争」停止を要求、経済制裁も示唆

ワシントン・ポスト紙によると、ウクライナ戦争の終結を巡り、アメリカのドナルド・トランプ大統領とロシアが正反対の立場を示している。

トランプ氏は戦争の即時終結を強く求め、自身が運営するSNSプラットフォーム「トゥルース・ソーシャル」に「経済が失敗しているロシアとプーチン大統領に大きな恩恵を与えよう。今すぐ解決して、この馬鹿げた戦争を止めろ! 事態は悪化するだけだ」と投稿。

トランプ大統領の投稿
トランプ大統領の投稿(トゥルース・ソーシャルより)

さらに、プーチン大統領がウクライナとの和平合意に応じない場合、「ロシアからアメリカに輸入されるすべての品目に高水準の税金、関税、制裁を課す」と警告し、経済制裁による圧力をかける姿勢を明確にした。トランプ氏は珍しくプーチン氏を表だって批判し、ウクライナ戦争によって「ロシアを破壊している」と指摘している。

これに対し、ロシア側は一歩も譲らない構えだ。ロシア大統領府の上級補佐官であるウシャコフ氏は「一時的な停戦や休戦ではなく、我々の正当な利益を尊重した永続的な平和でなければならない」と反論。ロシアの要求は、ウクライナのNATO加盟断念と非軍事化、併合した領土の保持、欧米の安全保障体制の見直し、NATOの東部国境からの軍事施設撤退など、極めて広範かつ強硬な内容となっている。

ロシア国内は人手不足、物価高騰の経済苦

だが、ロシアのウクライナ侵攻から3年。プーチン政権は、深刻な経済危機と国内世論の変化という二つの課題に直面している。米外交専門誌『フォーリン・アフェアーズ』のリポートによれば、ロシアの労働力不足は約480万人に達している。

2022年以降、戦争を避けて国外に逃れる人々が増加し、さらに大規模な兵力動員も重なったことで、労働力は急激に目減りした。その影響は教育現場にも及び、教員の不足数は約50万人に上るなど、社会の基盤が揺らぎ始めている。

深刻な人手不足は、経済全体を停滞させている。建設業界では資材価格が2021年から2024年の間に64%も高騰し、新規住宅建設が大幅に減速。運輸、鉱物採掘、農業などの基幹産業も軒並み不振が続いている。

さらに市民生活を直撃しているのが、急激な物価上昇だ。2024年の公式インフレ率は9.52%に達し、特に生活必需品の値上がりが著しい。果物・野菜が22.1%、バターが36.2%も値上がりしたほか、ガソリンが11.1%、医薬品が10.6%上昇するなど、家計は日増しに圧迫されている。

ロイター通信によると、ウクライナ侵攻後から2年の間は、ロシアは石油、ガス、鉱物の輸出に支えられ、力強い経済成長を維持してきた。しかし今年1月までの数カ月は様相が一変。人手不足に加え、膨れ上がる軍事費がインフレを招いている。その対策として高金利政策が導入されたが、これにより国内経済は急速に冷え込んでいる。