もう「平時の体制」には戻せない…
こうした経済の混乱は、戦争に対する国民の見方を大きく変えつつある。ロシアの独立系世論調査機関レバダ・センターの調査では、平和交渉を支持すると回答したロシア国民が2024年11月には57%まで上昇。12月にはやや低下して54%となったものの、反対派は37%にとどまり、戦争継続を疑問視する声が多数派となっているという。
和平を求める声は、政権中枢にも広がりつつある。ロイター通信が接触したクレムリンの内情に詳しい複数の情報筋は、ロシアのエリート層の間でも「戦争は交渉で解決すべきだ」との考えが強まっていると証言している。
元ロシア中央銀行副総裁のオレグ・ヴューギン氏も、経済面からの懸念を示す。同氏はロイター通信の取材に対し、軍事費の急増が経済の歪みを生んでおり、この問題を解消するためにも、ロシアは外交による解決に関心を持たざるを得ないと指摘している。
だが、フォーリン・アフェアーズ誌は、プーチン政権が簡単には戦争を終えられない理由もあると分析する。すでに軍需産業を中心とした経済構造が定着しており、これを平時の体制に戻すことは、プーチン政権の権力基盤そのものを揺るがしかねないためだ。戦争を継続するにせよ終結するにせよ、いずれにしてもプーチン政権にとって大きなリスクを伴う状況だ。
戦費調達スキームに潜むデフォルトの罠
経済危機が深まるロシアで、金融システムの歪みは限界に近づいている。米CNNは、戦時経済がもたらす構造的な問題について警鐘を鳴らす。
最も大きな問題として指摘されているのが、ロシアが戦費調達のために構築した特殊な金融システムだ。ハーバード大学デービス・ロシア・ユーラシア研究センターのアソシエイト、クレイグ・ケネディ氏の新しい報告によると、ロシアは「オフバジェット金融スキーム」と呼ばれる手法で戦費の実態を隠蔽しているという。この仕組みは、予算に計上されない形で資金を調達することで、実質的な戦費の規模を見えにくくしている。
この金融システムは、戦争開始直後に整備された。CNNによると、ウクライナへの全面侵攻開始から2日目の2022年2月25日、ロシア政府は重要な法改正を行った。これにより政府は、戦争関連の物資やサービスを提供する企業への融資を、銀行に対して強制できるようになった。
制度の導入以降、ロシアの金融システムに急激な変化が生じている。2022年半ばから2024年後半にかけて、民間融資は71%という異常な伸びを記録し、その規模はGDPの19.4%にまで膨らんだ。ケネディ氏の分析によれば、これらの融資の最大60%(2490億ドル[約38兆5000億円]相当)が戦争関連企業向けだという。さらに問題なのは、これらが「国家の強制力によって、信用力の低い企業に優遇条件で提供された融資」だという点だ。