専門家「コカインで走り回っているようなもの」
こうした異常な経済成長の実態について、専門家は強い警戒感を示している。ピーターソン国際経済研究所のシニアフェロー、エリーナ・リバコバ氏はCNNの取材に対し、「『ステロイド』による成長と言えばまだ聞こえは良いが、それでも(本物のステロイドの一種であれば)筋肉を作り出します。しかし、これは筋肉とは呼べません。コカインで走り回っているようなものです」と述べ、ロシアの成長は持続不可能であると指摘している。
さらに深刻なのは、この強引な資金調達方式がロシアの金融システム全体を危うくする可能性だ。ケネディ氏は、信用力の低い戦争関連企業への強制的な融資が、今後長期間を経てデフォルトを引き起こす可能性があると指摘する。その結果、銀行システム全体が多量の不良債権に耐えきれない事態が考えられるとの見解だ。
「年末までに資金が底をつく」急速に枯渇するプーチンの戦費
こうした金融システムの綻びが表面化しているにもかかわらず、プーチン氏は楽観的な姿勢を崩していない。英フィナンシャル・タイムズ紙は、プーチン氏が「金融不安や国民負担を生まずに戦費を調達できる」という現実離れした認識を持っていると指摘する。
戦費を支える国家福祉基金の残高は、急速に減少している。米フォーチュン誌の報道によると、ロシアの石油・天然ガス収入を原資とする同基金の流動資産は、ウクライナ侵攻開始前の1170億ドル(約18兆円)から310億ドル(約4兆8000億円)まで急減した。
経済学者のアンデルス・オースルンド氏は「残っている資金では2025年の財政赤字の4分の3しか賄えない」と指摘する。同氏によると、2025年秋には流動性準備金が底をつき、大規模な予算削減が避けられなくなるという。タイム誌は、石油収入が制裁で断たれれば、プーチン政権は年末までに戦費の支出に妥協を迫られるか、資金が底をつく可能性があると分析している。
だが、それでもプーチン氏は引く気配を見せない。軍事侵攻が4年目に入る2025年、トランプ氏が主張する制裁政策は、実効力ある打開策となるか。米政府が運営する国際放送局のVOA(ボイス・オブ・アメリカ)は、モスクワ高等経済学院の元副学長であり、現在はシカゴ大学ハリス公共政策大学院の特別教授を務めるコンスタンチン・ソーニン氏に見解を求めた。
ソーニン氏は、制裁には限界があると指摘する。「ロシアとアメリカの貿易額は年間30億ドル(約4640億円)に満たない極めて小規模なものです。このため、アメリカ企業によるロシアとの取引を全面的に禁止したとしても、ロシアへの打撃は限られたものになるでしょう」
