ジャスミンライス(長粒米)が主流のタイで、“タイ産”の日本米が売れている。価格は5キロ1600円。値段はタイ米の2倍にもかかわらず、現地の日本食レストランや富裕層に広がっている。なぜ可能だったのか。そこには、日本の栽培・精米技術を一から設計し直した42歳日本人の挑戦があった。タイ在住ライターの日向みくさんが取材した――。
タイで「日本のコメ作り」を広めた精米業者
タイの富裕層向けスーパー、「ヴィラマーケット」の米売り場。ジャスミンライスが棚を埋め尽くす一角に、その袋は置かれていた。
「のりたけ米 無洗米コシヒカリ」。5キロで320バーツ(約1600円、2026年3月時点)。パッケージには「家族に食べさせたい安心安全なお米」と記されている。日本の感覚では手頃だが、タイの一般的なジャスミンライスは5キロ150〜200バーツほど。現地では倍近い高価格帯にあたる。
炊き上がりの蓋を開けると、湯気の向こうで粒立ちのよい米が艶やかに光った。一口。もっちりと粘りがあり、噛むほどにほのかな甘みが広がる。
だが、これはタイ産だ。炒め物やカレーに合うパラパラとした長粒米が主流のこの国で、長きにわたって「タイ産の日本米はまずい」とされてきた。その認識を覆したこの米は、在留日本人だけでなくタイ人からも支持を集めてきた。なぜ、どうやって――。
「のりたけファーム」(NORITAKE FARM CO., LTD.)代表、則竹祐哉(42)。彼は13年にわたり、タイ人農家とともに「日本式の米づくり」を追求してきた。
タイ北部で管理する農地は、約500ヘクタール(東京ドーム約100個分)。そこで生まれた米は、現地のコンビニや大手チェーンで扱われ、いまやタイを代表する日本米ブランドのひとつとなっている。その歩みは逆風の連続だった。



