タイ産日本米で初めて「一等米」に
こうした取り組みは、数字にも表れている。現在、タイ全土の日本食店は6000店以上。その市場で、のりたけファームは「プレミアム日本米ブランド」として独自の立ち位置を築いてきた。導入店舗は約500店。管理する農地は500ヘクタール、年間生産量は約3000トンに達した。AIやドローンも活用し、生産体制の効率化を進めている。
2026年1月22日、チェンライ。その日、則竹は、のりたけファームが手がける最上位グレード「Noritake Selected米」の等級検査の日を迎えた。
当日、プロジェクトに関わった10人の社員が会場に集まった。張りつめた空気のなか、誰もが言葉少なに、その時を待つ。やがて、検査員が静かに口を開いた。
「一等米です」
次の瞬間、通訳が口を開くより先に、社員たちから拍手と歓声が湧き起こった。タイ産の日本米として初めて、農林水産省が定める検査基準で「一等米」と認められた瞬間だった。
則竹は、その場で深く息をついた。
赤字脱却、120軒以上の農家と協業へ
「自分が作った日本米しか食べないよ」
そう言って笑う農家の仕事ぶりに、かつての惰性はもう見られない。
以前は赤字続きで、借金を抱える農家が大半だった。だがいまでは、1ヘクタールあたり約3万バーツ(約15万円)の純利益が残る家庭も出てきた。6ヘクタールを耕せば、バンコクの平均世帯に並ぶ収入が見えてくる。
ソムチャイは、ある晩の酒の席で、ぽつりとこう語った。
「俺は、タイの農業をどうしたら良くできるかって、ずっと考えてきた。でも、誰も興味なんか持っちゃくれなかった。そこに、あんたらが現れたんだ。仲間ができた。……それが嬉しかった」
現在、のりたけファームは120軒を超える農家とともに、新しい試みを続けている。タイ農業が抱える次の課題に向け、かつて袂を分かったブンロード社とも再び協業を模索している。
国産でも外国産でもない、第3の選択肢
創業以来、則竹はタイ全土20カ所以上で試験栽培を重ねてきた。安定した収穫が見込めたのは、チェンライだけだった。新潟・魚沼に近い条件がそろうこの地なら、日本に引けをとらない米が作れる。そう考えている。
担い手不足が進む日本では、10年、20年先に国産米は足りなくなる。
国産か、外国産か。その二択ではない。日本人が、日本の技術をもとに海外でつくる「日本レベルの米」。それが、則竹の示す第三の選択肢だった。
「将来、日本で外国産の米を選ばざるを得ない時代が来ても、安心して手に取れる米を、このチェンライから届けたいんです」
2025年10月、則竹は父になった。いつか娘に、「このお米は、お父さんが作ったんだよ」と言える日を思い描きながら、今日も田んぼに立つ。




