ウクライナの戦場では、ロシアに派遣された北朝鮮兵士たちが戦闘に加わっている。友軍・ロシア軍との粗末な連携で、やっと持ち込んだ最新のミサイルシステムはロシア軍による誤爆で破壊。誤発砲による犠牲者も出ているという。捕虜になった北朝鮮兵士の声を海外メディアが報じている――。
2024年12月20日に撮影され、北朝鮮の朝鮮中央通信(KCNA)が21日に発表した写真。北朝鮮の金正恩委員長が松川郡に完成したばかりの地域工業工場を視察している。
写真=KCNA VIA KNS/AFP PHOTO/時事通信フォト
2024年12月20日に撮影され、北朝鮮の朝鮮中央通信(KCNA)が21日に発表した写真。北朝鮮の金正恩委員長が松川郡に完成したばかりの地域工業工場を視察している。

多大な犠牲を出しても突き進む北朝鮮軍の奇異な戦術

ニューヨーク・タイムズ紙は、クルスク地域で戦闘を展開する北朝鮮軍の実態について、ウクライナ軍兵士らの証言をもとに詳細な分析を報じている。

同紙によると北朝鮮軍の戦闘手法は、現代戦の常識からかけ離れているという。彼らは最新の装備に頼らず、第二次世界大戦さながらの徒歩による突撃戦法を主体としている。40人を超える大規模な部隊を一斉に投入しているが、これはドローンの標的になった場合、大量の死傷者を生むため現代戦では不利とされる。

さらに北朝鮮兵は、敵の重火器や地雷による激しい攻撃を受けても、決して後退せずに前進を続けるという。敵のドローンに対しては、意図的に囮の兵士を差し出し、別の兵士が撃墜する原始的な手法で対処している。

こうした独特の戦術を持つ北朝鮮軍はまた、ロシア軍との連携においても深刻な問題を抱えている。言語の壁に加え、訓練方法や軍事文化の違いにより、実質的に独立した戦闘部隊として行動せざるを得ない状況が続く。

前アメリカ国防総省国際安全保障担当次官補のセレステ・A・ウォランダー氏は、ニューヨーク・タイムズ紙の取材に、「(北朝鮮とロシアの)両軍は、共同訓練や作戦の経験がない上、ロシアの軍事文化には他国部隊の能力や規範を軽視する傾向があり、それが問題をより深刻にしています」との分析を示した。

対策として北朝鮮のグループ内に通訳・通信担当者の配置を始めたものの、ウクライナ軍のアンドリー指揮官は「こうした対策は、戦場では実効性がない」と指摘している。即時の意思疎通が求められる戦場において、通訳を挟んだコミュニケーションには限界があるとの指摘だ。

ロシア軍が金正恩の最新兵器を破壊

高い言語障壁により、ついには友軍であるロシア軍に誤爆を受ける事態が発生した。米フォーブス誌は、ロシア軍が北朝鮮軍の最新鋭防空システムを誤って破壊したと報じている。

現場となったロシア西部クルスク州では、北朝鮮の第11軍団約1万2000人がロシア軍の作戦支援にあたっている。この部隊は、独自開発した防空車両を配備していた。車両の基本設計は、ロシア製の短距離防空ミサイルシステム「Tor(トール)」を踏襲したものだ。

フォーブス誌の報道によると1月10日頃、ロシアのドローン部隊がこの防空車両を敵の装備と誤認。攻撃を加えて破壊したという。同誌は、「ロシアの無人偵察機が北朝鮮の車両を発見し、攻撃して破壊した」と言及。「カスタマイズされた北朝鮮の『Tor』は非常に珍しいため、ロシア軍自身は自国のものだとは認識していなかったようだ」と分析している。

ロシア軍は当初、西側製のレーダーシステムを破壊したとの成果を主張していた。だが、実際に破壊したのは北朝鮮版のTor地対空ミサイル(SAM)システムだった可能性が極めて高いという。