もうひとつの利益に、軍事技術の獲得がある。北朝鮮は部隊派遣の見返りとして、防空システム、潜水艦、ミサイル技術といった最新の軍事技術をロシアから得ているとされる。
この協力関係は、北朝鮮の武器開発にも新たな展望を開いている。自国製の武器がロシア軍によって使用される様子を直接観察できることで、品質向上のための具体的なデータが得られる上、現代の戦場に適した生産体制の確立も可能になる。加えて、実戦を経験した兵士たちが帰国後、その知見を教官として伝える体制も整備されつつある。
「本格的な実戦経験を積んだ」という指摘も
太平洋評議会は、こうした北朝鮮の着実な軍事力強化に対し、国際社会からは深刻な懸念が示されていると指摘する。アメリカの政府高官らは「北朝鮮の周辺国に対する軍事的脅威が格段に高まる」と警戒を強めている。最新技術が投入される現代戦を経験し、ドローン戦術に対しても対応力を付けることで、北朝鮮軍の実戦能力が急速に向上する可能性が危惧されている。
ウクライナ軍事情報機関のアンドリー・ユソフ報道官は、「数十年ぶりに本格的な実戦経験を積んでいる北朝鮮軍の存在は、ウクライナや欧州だけでなく、世界の安全保障における重大な懸念材料となっている」と警鐘を鳴らしている。
一連の報道から浮かび上がるのは、ウクライナ戦争を北朝鮮が、軍事力を向上させる機会として利用している現実だ。
表向きはロシアへの軍事支援という形を取りながら、北朝鮮は実戦経験と最新の軍事技術を着実に手に入れてゆくとみられる。金正恩氏への忠誠を誓う兵士らの学習能力の高さは侮れない。当初は古めかしい人海戦術で大きな損害を被りながらも、現代戦に適応すべく戦術を柔軟に進化させ、今や精鋭部隊としての評価を確立しつつある。
アジアへの影響も憂慮される。ウクライナ戦争を通じて北朝鮮が得た軍事力が、将来的に近隣諸国の安全保障の実態を大きく変える可能性は少なからず存在する。実戦経験を積んだ精鋭部隊の存在は、北朝鮮の軍事的脅威を一歩強めることになりかねない。
国際社会は、ロシアと北朝鮮の憂慮すべき軍事協力に対し、より効果的な対抗措置を講じる必要がある。ロシアに対する経済制裁の実効性を疑問視する声もあるなか、より実効的な安全保障戦略が求められている。