ウクライナ軍の精鋭部隊である第95空挺強襲旅団は1月11日に実施された作戦で、北朝鮮兵2名の身柄を確保した。塹壕で発見された一人目の兵士は、頭部と腕に負傷を負っていたという。同旅団の兵士は、捕虜として捉えた際のエピソードを語る。
「手榴弾とナイフ、ソーセージを所持していた北朝鮮兵に、全てを地面に置くよう命じました。ですが、彼は『これは食料だ』とばかりに、ソーセージだけは決して手放そうとしなかったのです。仕方がないので、そのまま持たせておくことにしました」
食糧難が常態化している北朝鮮で生まれ育ったこの兵士は、食料だけは無駄にできなかったようだ。
「韓国のロマンス映画を見せてほしい」
徐々に人間性を取り戻したという別の北朝鮮兵の話も報じられている。コールサイン「デッド」を名乗るウクライナ軍空挺兵は、テレグラフ紙に対し、「道路への連行中、(捕らえた捕虜が)突然走り出して、コンクリートの柱に頭から突っ込んでいったのです」と振り返る。
自決用の武器を所持していなかったことから、頭を打ち付けて命を絶とうとしたようだ。衝突で意識を失った兵士だが、時間をかけて手厚い治療を施し食事を与えると、次第に落ち着きを取り戻していった。
その後の顛末について、パブロと名乗る別のウクライナ軍兵士は、「韓国のロマンス映画を見せてほしいと頼まれました」と明かす。一時は自害を試みたが、徐々に余裕が出てきたようだ。取り調べでは、2人とも「ロシアでの軍事訓練のため」という説明を受けており、実戦参加の可能性については知らされていなかったことも判明した。
ロシア軍からは、北朝鮮出身であることを隠すための偽の身分証を支給されていたという。ロシアと北朝鮮は双方とも、北朝鮮兵のウクライナ派兵を公式に認めていない。
ウクライナ侵攻の初期には、訓練と偽って戦場に連れて行かれたというロシア兵らの話が報じられた。北朝鮮兵らも同様に、実戦とは聞かされず、突如前線に送られているようだ。
ロシア兵より充実した装備
一方で、当初は言語障壁などからロシア軍の足手まといになるとみられていた北朝鮮兵らの戦闘能力が、意外にもウクライナの脅威になっているとの報告も出ている。
理由の1点目は、想定外に充実した装備だ。ウクライナ特殊部隊第8連隊第1大隊の隊員ブラド氏は、ワシントン・ポスト紙の取材に対し、皮肉を込めてこう語る。「ロシアは北朝鮮兵に対して『お客様第一(best for the guest)』の態度を取っているかのようです。自国の兵士たちが粗末な装備で戦っているというのに、北朝鮮兵には高性能の装備を惜しみなく与えているのです」
ウクライナ特殊部隊が死亡した北朝鮮兵を検査したところ、最新のロシア製アサルトライフル2丁に加え、ウクライナ製のナイフ、防弾チョッキ、応急手当キット、軍事ID、シャベルなどを所持していることが明らかになった。また、北朝鮮兵は防寒対策も整えており、雪に溶け込むための白い迷彩服を着用していたという。