かつて「渋谷の北朝鮮」と揶揄されたヴィンテージマンション、秀和幡ヶ谷レジデンス。そこで異常ともいえる厳しいルールを強いた理事長と管理組合、住民有志の闘争を取材した栗田シメイさんは「管理組合の理事長たちがやりたい放題やっている。Uber Eatsも入れないなど、独裁国家で暮らしているようだ」と区分所有者から打ち明けられたという――。

4年続いた「横暴な理事長」VS「住民有志の会」の対決

秀和幡ヶ谷レジデンスは、新宿駅から京王線でわずか2駅の幡ヶ谷駅にある大型分譲マンションです。駅からは徒歩4分、周辺にはスーパーや飲食店も多く、外観も築50年ほどと古い割には大変きれいに保たれています。

はた目には住環境に恵まれたマンションのように見えますが、実は2018年から約4年間、ここでは有志の住民たちと管理組合理事会との戦いが繰り広げられていました。書籍『ルポ 秀和幡ヶ谷レジデンス』(毎日新聞出版)は、その闘争の一部始終を記録したものです。

私が不動産会社の知人から「秀和幡ヶ谷レジデンスで、独裁的な管理組合の謎ルールの数々に住民が困り果てている」と聞かされたのは2020年のことです。住民に会って直接話を聞いたところ、その内容は想像以上のものでした。

管理組合の理事会では理事長を筆頭とした特定の理事たちがやりたい放題やっている、まるで独裁国家で暮らしているようだ、だから有志の区分所有者が立ち上がって住民運動を展開しているのだと。「やりたい放題」の内容には耳を疑いましたが、それ以上に私が驚いたのは、皆さんがものすごい熱量で怒り続けていたことでした。

いい大人がここまで感情をむき出しにするなんて、いったい何があったんだ――。それが、このマンションに興味を持ったきっかけでした。

秀和幡ヶ谷レジデンス、東京都渋谷区
写真提供=毎日新聞出版
秀和幡ヶ谷レジデンス、東京都渋谷区

ウーバー禁止、介護サービスや救急隊も入れない理事会の謎ルール

取材を進めていくと、数々の“異常管理”ともとれる事態が浮かび上がってきました。私が特におかしいと感じた事柄は主に三つ。その一つ目が“謎ルール”です。いずれも理事会が独自に追加したもので(下記は理事会が否定したものも含まれる)、事例としては次のようなものがありました。

【秀和幡ヶ谷レジデンスの謎ルール事例】
1.身内や知人を宿泊させると転入出費用として1万円を請求された
2.平日17時以降と土日は介護事業者やベビーシッターが出入りできない
3.夜間、心臓の痛みを覚えて救急車を呼ぶも、管理室と連絡が取れず救急隊が入室できなかった
4.Uber Eatsなどの配達員の入館を拒否される
5.購入した部屋を賃貸として貸し出そうとすると、外国人や高齢者はダメだと管理組合から理不尽な条件を突きつけられた
6.マンション購入の際も管理組合による面接があった
7.引越しの際の荷物をチェックされる