石破茂首相が政府備蓄米を追加放出するように農林水産省に指示した。放出は7月まで毎月実施する。今度こそコメの値段は下がるのか。キヤノングローバル戦略研究所の山下一仁研究主幹は「政府備蓄米の売り先はJA農協だ。JA農協が卸売業者に販売する相対価格を決めている。この相対価格が下がらない限り、小売価格は下がらない」という――。
精米工場に搬入された備蓄米=2025年3月、埼玉県内
写真提供=共同通信社
精米工場に搬入された備蓄米=2025年3月、埼玉県内

備蓄米放出後も価格上昇が止まらないワケ

備蓄米を21万トン放出しても、コメの値段は下がるどころか上昇している。

農水省の調査でも13週連続して値上がりして3月末には5キログラムで4206円に高騰している。1年前の2000円程度の水準から倍増である。とうとう石破総理の指示で、農水省は7月まで10万トンずつ備蓄米の放出を行うことを決めた。私にはマスコミからこれでコメの値段は下がるのかという問い合わせが来ている。

私の答えは、「3400円くらいには下がるが、それ以下にはならないだろう」というものだ。エコノミストの株価や為替の予想と同じで当たるかどうか分からないが、根拠を示しておこう。

私は昨年から、今回の米価上昇は、24年産米を昨年8~9月に40万トン先食いした結果、本来同年産が供給される24年10月から今年9月までの供給がその分減少したからだと説明してきた。

現に今年の2月まで民間の在庫は前年同月比で40万トン程度減少している。政府が既に放出した21万トンに加え、4月、5月に10万トンずつ放出すれば、40万トンの不足は解消される。消費者が購入するコメの値段は1年前の2000円程度まで下がるはずである。

しかし、既に21万トン放出したのにコメの値段は逆に上昇している。備蓄米を追加放出してもコメの値段は下がりそうにない。

それは、農水省の備蓄米放出に米価を下げないカラクリが巧妙に用意されているからだ(「この人に任せればコメ価格は下げられる…農政の専門家が名前をあげるJA農協にメスを入れられる唯一の人物」参照)。