JAの「仕入れ値」と「売値」

一つは、消費者に近い卸売業者や大手スーパーではなく、米価を低下させたくないJA農協(全農)に備蓄米を売り渡したことである。その量は、放出された備蓄米の9割を超える

米価は需要と供給で決まる。備蓄米を放出しても、その分JA農協が卸売業者への販売を減らせば、市場への供給量は増えない。また、JA農協が備蓄米を落札した値段は60キログラム当たり2万1000円である。これより安く売ると損失を被るので、これ以上の価格で卸売業者に販売する。

もう一つは、1年後に買い戻すという前代未聞の条件を設定したたことである。米価の上昇によって、農家は25年産の主食用米の作付けを増加させることが予想される。しかし、7月まで売り渡す予定の備蓄米61万トンと同量を市場から買い上げ隔離すれば、1年後も米価は下がらない。そもそも、放出して買い戻すのであれば、市場への供給量は増えない。備蓄米の放出には、米価を下げないという農水省の意図が隠されているのだ。

卸売業者がスーパーや小売店に販売するコメは主としてJA農協から仕入れている。その時の価格が「相対価格」と言われるもので、現在60キログラム当たり2万6000円まで高騰している。

農家が「米価が上がった実感がない」と語るワケ

相対価格からJA農協の手数料を引いたものが生産者(農家)価格となる。農家は、まずコメをJA農協に引き渡した時に概算金という仮渡金を受け取り、JA農協から卸売業者への販売が終了した後、実現した米価(相対価格)を踏まえて代金が調整される。

つまり昨年の出来秋時の60キログラム当たり1万6000円程度の概算金から現在の2万6485円(2025年2月)まで上昇した部分は、24年産米の取引終了後に追加払いされることになる。今の時点で、農家が「米価が上がった実感がない」と言うのは当然である。

コメの状態をチェックしている手元
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