アメリカ人は大谷翔平選手のことをどう見ているのか。現地でスタンダップコメディアンとして活躍するSaku Yanagawaさんの著書『どうなってるの、アメリカ!』(大和書房)より一部を紹介する――。(第1回)
米大リーグ、メッツとのナ・リーグ優勝決定シリーズ第4戦の1回、2試合連続本塁打となる先制ソロを放ったドジャース・大谷翔平=2024年10月17日、ニューヨーク
写真提供=共同通信社
米大リーグ、メッツとのナ・リーグ優勝決定シリーズ第4戦の1回、2試合連続本塁打となる先制ソロを放ったドジャース・大谷翔平=2024年10月17日、ニューヨーク

アメリカのスポーツ専門局による特大スクープ

2024年3月20日、衝撃のニュースが飛び込んできた。

「ロサンゼルス・ドジャースは大谷翔平の通訳、水原一平を『巨額の窃盗』の疑いで解雇」

オフに10年総額7億ドル(約1000億円)の超大型契約を交わしたスーパースターにまつわるこの一件は、当時スポーツ・ニュースでも大きく報道された。この一報をすっぱ抜いたのは『ロサンゼルス・タイムス』誌とスポーツ専門局のESPN。

とりわけ総力特集を組んだESPNで本記事を担当していたのはティシャ・トンプソンという女性記者だった。ホームページを見ると彼女の肩書きは「Investigative Reporter(調査報道記者)」とある。

より具体的には「リーグの性的暴行やハラスメントの調査、また民事や刑事事件、スポーツ・チケットなどの消費者問題、その他のスポーツと権力にまつわる調査を専門としている」と記されている。

日本のマスメディアがオフシーズンの間に大谷翔平の移籍先や結婚をこぞって報じている間に、スポーツ専門局ESPNでは連邦当局への聞き込み取材や、銀行情報のチェック、そしてドジャース球団へのインタビューなど賭博問題を丹念に調査していたという事実に、アメリカのジャーナリズムに対する姿勢を垣間見ることができるのではないか。

「球界のスターと賭博」

いずれにせよ、各局のスポーツ・コーナーはこの問題を「スーパースターの一大スキャンダル」として報じた。ひと足さきに韓国でパドレスとの開幕戦を迎えていたドジャース。

この時点で他の球団はまだ開幕前であり、また例年この時期は「マーチ・マッドネス」と呼ばれるカレッジ・バスケットボールのプレーオフと重なるため、MLBのニュースはスポーツ・コーナーにおいてもそこまで時間が割かれないのが通例だが、それでも賭博問題はスポーツ界全体の注目事として扱われた。

「球界のスターと賭博」という見出しに、多くのアメリカ人がピート・ローズを想起したに違いない。

MLBの歴代最多安打記録を保持するピート・ローズは監督を務めていた1989年、自身の試合を含む多数のMLB公式戦に賭けていたことが発覚し、永久追放処分を受けている。

大谷翔平はもちろん、当の水原一平も野球賭博には関与していないため、永久追放処分とはならなかったが、多くのベースボール・ファンが一時、最悪の事態を思い描いた。

数日後にはMLBのみならずFBIやIRS(アメリカ合衆国内国歳入庁)が調査に乗り出し、ますます報道は加熱していった。日本でも連日、この一件がどの局でも「ニュース」として大きく扱われていたと聞く。