ネット配信サービスに追いやられ、存在感を失った衛星放送
一時代を画した衛星放送が、出口の見えない長いトンネルに入っている。
最近、衛星放送に絡むニュースをさっぱり見かけなくなったと感じている人は少なくないかもしれないが、それもそのはず。この数年の間に、衛星放送を取り巻くメディア事情は一変し、巷をにぎわせるような明るい話題はまるでなくなってしまったのだ。
衛星放送は、全国にあまねく同じ番組を同時に届けることができるうえ、多チャンネルでさまざまなジャンルの番組を享受できることから、かつては「地上放送を凌駕するのでは」と言われたこともあったが、今や、それも夢物語になりつつある。
無料のBS民放は、スポンサーの確保もままならずテレビショッピング(通販番組)だらけ。多くの専門チャンネルを提供する有料放送の「WOWOW」や「スカパー!」も急速に加入者を減らしている。大谷翔平選手はじめ日本人選手が活躍する米大リーグの中継を独占するNHKBSも、受信契約は伸び悩んだまま。衛星放送から撤退する事業者が続出し、新規募集への応募もまばらで、放送衛星の中継器(トランスポンダ)はガラ空き状態になっている。
衛星放送を苦境に追いやったのは、急伸するネット配信サービスだ。「ネットフリックス」や「Amazonプライム・ビデオ」に「ディズニープラス」、「U-NEXT」や「Hulu」などがものすごい勢いで普及。いつでも、どこでも、見たい番組を、スマホやネットテレビなどさまざまなデバイスで手軽に見られるネット配信サービスは、衛星放送のメリットを包み込み、その優位性を奪ってしまった。
映像メディアの勢力地図が激変する中、放送行政を所管する総務省は、有識者を集めて起死回生策を練ったが、妙案は浮かばずじまい。
1990年代に鳴り物入りで始まった衛星放送だが、もはや「オワコン」(旬が過ぎ将来性がないもの)になってしまったのだろうか。