「みなさまのNHK」の金看板が泣く
放送100年の節目に、NHKは、ネット事業が放送と同様に必須業務となる歴史的転換点を迎える。名実ともに、放送と通信の融合の実践である。ところが、その重大な時期に、NHKの最高意思決定機関である「経営委員会」の存在意義が問われる事態になっている。
「ネット受信料」の創設などを組み込んだ中期経営計画(2024~26年度)の修正版を、経営委は1月8日、視聴者などから寄せられた多数の意見や要望にほとんど耳を傾けることなく、わずかに手直ししただけで、執行部の意のままにあっさり議決してしまったのだ。
真に「公共メディア」へ脱皮する千載一遇のチャンスにもかかわらず、NHKの経営方針を決める権限をもつ経営委は、NHKの将来像を自ら示そうとせず、ネット事業のあり方にもたいした注文もつけずじまい。これでは「お飾り」と言われても仕方がない。
おりしも、世間を騒がせた「かんぽ報道問題」(かんぽ生命保険の不正販売を取り上げたNHK番組『クローズアップ現代+』を巡り、経営委が2018年に上田良一会長(当時)を異例の厳重注意とした問題、詳細は後述)をめぐって、経営委の失態が「断罪」されたばかり。
「みなさまのNHK」の金看板は、経営委員の面々には見えていないようだ。
「ネット受信料」は地上放送と同額の1100円
経営委が議決した中期経営計画の再修正版は、放送とネットを両輪とする「公共メディア」としてのNHKの役割を「情報空間の健全性を確保することで、民主主義の発展に寄与すること」とあらためて位置づけ、10月からネット事業が放送と同じ必須業務になることを受けて、新たな業務として①同時配信②見逃し配信③番組関連情報の配信――を列挙した。
さらに、ネット事業の必須業務化に伴う基本的考え方として
① 放送経由でも、ネット経由でも、同等の、変わらない、同一の価値、同一の受益をもたらすこと
② ネット経由でのみ受信している場合にも、放送経由で受信している場合と同様の費用負担をお願いすること
を掲げた。
つまり、「ネットでは地上放送と同じ番組を配信するので、ネットのみで視聴する場合は地上放送と同額の月額1100円とします」というのである。
一見、「なるほど」と言いたいところだが、実は、そこには大きな矛盾が潜んでいる。
それは、経営委が意見募集で寄せられた真摯な意見をみると、よくわかる。
問われる「デジタル時代にふさわしい受信料制度」
中期経営計画修正版の原案に対して実施した意見募集は2024年秋に約1カ月間行われ、323件(放送事業者等17件、個人306件)の意見が寄せられ、再修正版とともに公表された。
そこでは、さまざまな角度から多くの論点が示されたが、中でもNHKの存立基盤である受信料制度に関連して厳しい意見が噴出した。