※本稿は、長嶋修『2030年の不動産』(日経プレミアシリーズ)の一部を再編集したものです。
「住宅街の一戸建て」より「駅前マンション」
マンション人気の陰に隠れて、戸建市場は冬の時代に突入しています。さまざまな側面から、「戸建よりマンションのほうがいい」と判断する人が増えたからです。
ここ10数年にわたってマンション価格は右肩上がりですが、同時期の戸建の販売価格は大きな伸びが見られません。コロナ禍の一時期は、在宅ワークの定着で部屋数の多い戸建のニーズが回復しましたが、すでにその特需も終わりました。
需要が減った要因はいくつも挙げられます。たとえば、多くの戸建はマンションより専有面積が広いですが、今は「家の広さよりも利便性を優先する」という価値観が浸透しています。
ファミリー世帯であっても、駅から15分以上離れていて専有面積が100平方メートル以上ある戸建に住むより、駅前にある専有面積60平方メートルのマンションに住みたい、というニーズのほうが強いのです。
「車離れ」で駅近志向がさらに高まる
マンションは幅広い年代の人に買われており、一次取得層でとりわけ多いのは30~40代です。子どもが小さいうちに家を買うパターンが多いのは今も昔も同じですが、子育て中の世帯にとっては、駅から遠い戸建よりも利便性の高いマンションのほうが断然暮らしやすいのでしょう。
共働き世帯となれば、なおさらそうです。昨今、専業主婦世帯が全体の約3割まで減少し、それに代わって共働き世帯が大幅に増えたことも、駅近志向に拍車をかけています。
都市部のマイカー保有率の低下も無関係ではありません。車を持つと税金やガソリン代などの維持費がかさみますし、若年層にはそもそも車への憧れがない人が増えました。必要に応じてカーシェアのサービスを利用しやすくなったことも、車離れの要因の一つと考えられます。車がなければ、駅の近くに住んだほうが便利という判断になるのも納得です。