こうしてみると、ネット配信サービスは、衛星放送の特性である全国一律サービスや多チャンネルを包含してしまったといえる。時間軸の編成表に基づくチャンネルというコンテンツ提供形態は、もはや時代遅れといわざるを得ない。
視聴者は、衛星放送にメリットを感じることはなくなり、ネット配信サービスへ向かって雪崩をうちかねない状況だ。
それだけに、衛星放送がネット配信サービスに打ち勝つのは容易ではない。
総務省の有識者会議も頭を抱えたまま
急速な映像市場の変化にとまどいながら危機感を募らせたのが、総務省だ。
有識者によるワーキンググループを立ち上げ、2023年秋から1年間かけて、衛星放送の現状を分析し、課題を整理し、報告書をとりまとめた。
そこでは①放送衛星の調達・打ち上げや運用の費用削減、②地上放送の代替としての衛星放送の活用、③災害時における衛星放送の活用、④周波数の有効利用、⑤通販番組の適正化――などについて整理されたが、課題だけが浮き彫りになり、衛星放送の復活に向けた具体的な提言は示されずじまい。
集まった有識者も、総務省の事務方も、良い知恵が浮かばず、対応に苦慮していることが伝わってくるようだ。
このままで電波の無駄遣いである
そんな苦境の中で、衛星放送が生き残れるとすれば、単なる「テレビの延長」ではなく、「新しいメディアの形」として進化できた場合だろう。
一つは、放送とネットのそれぞれのメディア特性を活かした「衛星放送+ネット配信サービス」のハイブリッドモデルの確立が検討される。
また、コンテンツ面では、大型イベントや音楽ライブのような地上放送やネット配信サービスにはない独自コンテンツの開拓や、教育やドキュメンタリーなどより専門性の高いチャンネルに特化して集積することなどがイメージされる。
だが、多額の投資に見合うリターンが期待できるかどうか。何より、衛星放送を何としても活かそうとする意欲のある事業者が出てくるかどうか。
正直なところ、懐疑的にならざるを得ない。
衛星放送は、1局1チャンネルの地上放送に対し、専門性の高い多チャンネルの放送サービスとして、鳴り物入りで登場した。地上放送に先立って4K・8Kの超高精細度放送もスタートした。放送界の枠の中では、十分に存在価値を示すことができたのだが、ライバルがネット配信サービスになったとたんに、そんなアドバンテージは吹き飛び、袋小路に入ってしまった感がある。
「一世代30年」とはよく言ったもので、スタートしてからおおむね30年。予想もしなかったメディア環境の激変で、衛星放送は大きな曲がり角を迎えている。