2020年頃から、トヨタグループの不祥事が相次いで起こった。この原因はなんだったのか。自動車アナリストの中西孝樹さんの著書『トヨタ対中国EV』(日経BP)より一部を紹介する――。(第4回)
トヨタ自動車
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トヨタグループの問題はどこにあったか

なぜ2020年頃からトヨタ、トヨタグループ、関連企業で不祥事が続いてきたのか。数多くの報告やトヨタ自身の説明からは筆者の受け止める真因は、先述の「余力不足」という基礎力が欠けており、「企業風土」の問題であると捉えている。

トヨタと言えば技術・生産技術・調達・経理という機能軸の強い会社であった。その壁を取り払うために、製品軸によるカンパニー制やプロジェクト軸を中心とした組織改革を実施してきた。各機能の代表が集結し、一人のリーダーシップの下でいいクルマを作るという「チーフエンジニア(CE)制度」はその代表的な取り組みである。

「経理機能の力は弱くなった。カンパニーに取り込まれている」と、あるトヨタの経理社員が強かった経理を懐古するような話をしたことがある。筆者は長くアナリストとして多くの自動車会社を比較分析してきた。「それでも、どの会社よりも、トヨタの経理はまだまだ強いですよ」と筆者は切り返したことがある。

機能軸の壁は今でも厚く、調整に時間と忖度を費やすことが多い。言いたいことを言えない。困ったことも相談できず、声を上げにくい雰囲気があり、対話の阻害要因とも指摘されている。(※1)

横連携が弱まり、問題提起をためらう企業風土が生まれていたようだ。

曖昧だったグループの統治構造

機能軸の壁は「余力不足」にもつながっているようである。トヨタイムズによれば、企画→生産→販売など機能ごとに車両仕様書がそれぞれの機能で「読み替え(変換)」リレーが発生しており、合計で31万時間を「読み替え」に費やしていたという。(※2)

合計で31万時間。新車の企画から販売まで、クルマづくりの作業全体の35%を、トヨタが社内資料の解読に費やしているという話には驚かされた。現在では、機能間の言語を統一するシステム「OMUSVI(オムスビ、Organized Master Unified System for Vehicle Information)」が導入されている。

グループ会社の不正問題はそれぞれに固有の真因があるが、共通していることは余力不足とスケジュール偏重、グループ内での権限・責任の曖昧さがあり、声を上げにくい風土が根付いていたことである。グループの統治構造の曖昧さが問題の大きな原因と考えられる。

トヨタ、トヨタグループの不正に共通するのは認証試験での不正であり、実際の性能・安全性には問題がないところだ。基準に達せないものを不正で隠すことは動機がはっきりしているが、基準を満たす開発力を持ちながら認証結果を歪める真意はより深刻な話である。