世界の自動車市場において、日本メーカーの立場が揺らいでいる。とりわけ世界最大の自動車市場である中国は、コロナ禍を経て変貌を遂げ、今や中国EVメーカーが大変な勢いで台頭してきている。自動車アナリストの中西孝樹さんの著書『トヨタ対中国EV』(日経BP)より一部を紹介する――。(第1回)
中国の国旗が付いた電気自動車のアイコン
写真=iStock.com/Grafissimo
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コロナ禍以前は勝ち組だった日本車

コロナ禍に入る2020年より前、中国自動車市場は国策としてEVの普及拡大を図り、多額の購入補助金を投じ供給力を高める政策を採ってきた。しかし、EV需要は当初の期待ほどには伸びず、皮肉にも勝ち組となったのは魅力的なエンジン車を提供する日本勢やドイツ勢であった。

2019年における中国EV市場はわずか120万台規模にとどまり、その半分以上が公用車、タクシー、カーシェア向けに押し込まれているのが実態であった。

ところが、中国政府がゼロコロナ政策のもとで国を閉ざしていた数年間に、市場環境は急速かつ劇的に変化したのである。2023年4月に開催された上海モーターショーには、久方ぶりに世界各国から多数の自動車メーカーが出展した。日本メーカーからも関係者が参加したが、その多くは落胆の表情で帰国の途についた。

4年ぶりの上海モーターショーは、想像を超えるSDV(※)の世界へとワープしていたのである。そこに広がっていたのは、単なるEVではなく、ソフトウェア化とデジタル技術によってサービス指向へと進化したSDVモデルの数々であった。

※SDV…「Software Defined Vehicle」の略称で、ソフトウェアによってその価値や機能が定義・制御される次世代の自動車のこと。

上海モーターショー
上海モーターショー(2023年4月21日)(写真=CFOTO/共同通信イメージズ)

ホンダCEOも危機感を募らせる中国の進化

「これまでの我々の価値の届け方では歯が立たないのではないか」――ある国内自動車メーカーの技術企画担当役員はこう漏らした。

「現実の上海ショーを目の当たりにし、想定以上に先へ進んでいると認識した。このままでよいはずがない」

帰国後、例年のCEOアップデートに臨んだホンダCEO三部敏宏は、そう述べながら危機感を隠さなかった。

EVのコア部品である電池のサプライチェーンは、もはや完全に中国に制圧されたと言って過言ではない。圧倒的なコスト競争力と開発スピードを背景に、中国最強メーカー群はEV分野で世界をリードしている。習近平政権が推進した「中国製造2025」の成果として、中国は電動化において揺るぎない地位を確立した。

現在の中国国家戦略は「デジタルチャイナ」に移行している。半導体とAIという知能化領域のSDVのバリューチェーンにおいて、世界的な地位確立を目指していると考えられる。

この実現に向け、中国自動車産業はEVを先兵として国際化を進め、スケールメリットを確立した後に、先端ソフトウェアを転写することでSDVの規模を拡大し、最終的には世界的なSDVバリューチェーンの確立を図る戦略である。