目の当たりにした中国のSDVの凄さ

筆者は深圳市にある華為科技(ファーウェイ)の自動車事業ユニットである「Intelligent Automotive Solutions(IAS)」の巨大な技術展示ホールを訪れたことがある。

ここはSDVのエコシステムがほぼ完全に網羅されている。ソフトウェア基盤から車載半導体(チップ)、ドライブトレイン、LiDAR(ライダー)らセンサー群、クラウドサービスなど必要なソリューションのすべてが揃っていた。同社が、スマホメーカーからSDVのシステムソリューションのプロバイダーに進化している姿を目の当たりとした。 

そこに隣接する形で営業している「華為旗艦店(フラッグシップストア)」も訪問した。同店は、商業モールにあるスマホを中心とするショップと比較して圧倒的なスケールであり、訪れたG区店は3フロアあり、延床面積1845平方メートルと、その規模はもはや中規模百貨店に匹敵する大きさであった。

スマートフォン、タブレット、スマートホーム機器にとどまらず、店内の中心に据えられているのは、ファーウェイがソリューションを提供し、自動車メーカーと共同開発したSDVである。東風汽車とうふうきしゃ傘下の賽力斯(セレス)が手掛ける「問界(アイト)M5」や長安汽車傘下の「阿維塔(アバター)11」などの車内空間体験を実際に試みた。

これまでの車とは全く異なる世界観

中国のSDVにおけるユーザー体験は、乗り込んだ瞬間から伝統的な自動車とは全く異なる世界観を提示する。フロント中央の大型タッチスクリーンに加え、音声認識やジェスチャー操作を組み合わせることで、ほとんどの機能を直感的に操作できる。

持ち込んだスマートフォンは容易に車両と接続され、自宅のスマートホーム機器を遠隔操作することも可能である。車内空間はもはや単なる移動の場ではなく、没入体験を提供する魅惑の空間へと変貌する。

これらコックピット空間価値は、スマホ、スマートホームなどとつながる車載オペレーティング・システム(ビークルOS)と高性能の半導体システム(SoC)の演算性能が作り出す。システムは瞬時に起動し、アプリケーションの切り替えも軽快に進む。音声アシスタントはほとんどラグを感じさせずに応答し、ドライバーと車両は普通に会話が弾むのである。

ショールームでは体験できないが、もう1つの魅力は高度運転支援システム(ADAS)である。現在の中国においては自動化のレベルを示すL2+、L2++に相当するADASは、限りなくL3に近い体験価値を提供する「ナビゲーション・オン・オートパイロット(NOA)」と呼ばれ、大流行している(自動運転レベルの解説は図表1を参照)。 

【図表1】自動化レベルの分類
出典=『トヨタ対中国EV