快進撃が続く中国EV市場に変調が見え始めた。そこには中国産業政策の構造的課題が存在する。自動車アナリストの中西孝樹さんの著書『トヨタ対中国EV』(日経BP)より一部を紹介する――。(第3回)
中国国旗
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中国自動車産業に響く不協和音

筆者は2025年4月の上海モーターショー、6月には広州・深圳地域のメーカーを訪問した。そこで耳にしたのは、中国自動車産業に響く不協和音である。戦略産業クラスターの推進に突き進む地方政府と、業界の健全化を求め慎重な姿勢を取る中央政府との間に、明確な温度差が存在していた。

シャオミのSU7による死亡事故は、中国政府が自動運転技術の発展に対して慎重姿勢を強める大きな契機となったと考えられる。世界からの信頼を獲得できない自動運転技術を搭載したSDVは、中国が掲げるデジタル戦略の根幹を揺るがしかねないのである。

中央政府は、過熱した自動運転競争に待ったをかけ、技術のさらなる熟成を優先する必要性を感じ始めたと思われる。中国が今後進めるL3運用においては、車載センサーとAIに依存する自律型だけでなく、インフラとの協調をより重視していく可能性がある。

現在、中国のSNSでは、自動運転技術の安全性を検証する動画が相次いでバズっている。その代表例が、中国の人気自動車アプリ「懂車帝(ドンチャーディー)」が運営する自動車専門動画チャンネルである。

安全性を求め始めた中国ユーザー

懂車帝は、新車・中古車の検索、レビュー、比較、試乗動画、価格情報など幅広いサービスを提供し、抖音(ドウイン=中国版TikTok)でのフォロワー数は830万人を超える。

動画チャンネルは、中国のC-NCAP安全評価を実車走行で検証する真面目な番組であるが、シャオミの事故以降は、NOAによる実際の高速走行テスト結果を映像で流し、事故瞬間の映像インパクトを重視したエンターテインメント寄りの内容がバズっている。

100万回以上再生された動画は10本を超え、中でも「216Crashes」の動画はビリビリ(中国版YouTube)だけで217万回再生を記録した。

中国ユーザーが単なる利便性ではなく、安全性を購買判断の重要な要素として認識し始めている兆候である。