攻撃的な値下げを仕掛けるBYD
2025年5月23日、BYDは王朝(ダイナスティ)シリーズや海洋(オーシャン)シリーズなど22車種を一気に大幅値下げすると発表、シーガルで20%(5.3万元、約100万円)、シール07DM-iは実に34%(10.3万元、約200万円)も希望小売価格を引き下げた。
全国乗用車市場情報聯席会(CPCA)によれば、2025年1~4月の自動車販売価格の平均値下げがEVで2万7000元にも達した。中国メーカーの収益性の悪化と業界秩序の乱れにCPCAが苦言を呈した矢先の出来事であった。
BYDの攻撃的な値下げによる販売方針は今に始まったことではない。目標の販売台数に届かない焦りがあるのか、値引きは一段と激しくなった印象がある。BYDとは違い、日本メーカーは過去に販売したユーザーを裏切ることになる小売価格の変更を頻繁に実施することはできない。
インセンティブ(販売奨励金、実質的な値引き)でプライスリーダーのBYDに追随していかざるを得ない。ホンダは2023年に2万元(約40万円)だった1台当たり平均値引き金額を、BYDの5月の値下げ後には5万元(約100万円)に拡大している。
勢いに陰りが見える中国のEV市場
ロイターの報道によれば、長城汽車(Great Wall Motor)の魏建軍会長は、「自動車業界の中にはすでに恒大が存在している」と述べ、業界が不健全な状態にあると痛烈な批判を表明した。(※1)
恒大グループと言えば不動産不況の中で経営破綻を迎えた企業である。これに追い打ちをかけるように6月7日にジーリーの楊学良副総裁は自動車会議で「魏氏は純粋で、正直な人物であり、私たちの業界の内部告発者だ」と魏会長の言動を支持した。(※2)
業界内の痴話げんかといえばそれまでだが、絶好調に見えていた中国EV市場の変調を裏付ける一幕である。
中国自動車工業協会(CAAM)は「公平な競争秩序の維持、産業の健全な発展促進に関する提唱」を公表した。その中で、①全企業が法令を順守し公正な競争原則を守ること、②優位企業は市場独占を避け他社の権利を保護すること、③法的に許容される価格調整を除き、原価割れ販売や虚偽広告の禁止、④自主的な点検と是正を実施し、品質低下や消費者被害を防ぐことを指導している。
工業情報化部(MIIT)は「価格戦争には勝者も未来もない」と、CAAMの考えに沿って不公正競争や虚偽広告への監視を強化すると表明している。

