NHK「ばけばけ」では、トキ(髙石あかり)の一家が嫌がらせを受けるシーンが描かれた。モデルとなった小泉八雲の一家は、実際どうだったのか。ルポライターの昼間たかしさんが、文献などを基に史実に迫る――。
ラフカディオ・ハーンの肖像
ラフカディオ・ハーンの肖像(写真=『The World's Work』/PD US/Wikimedia Commons

八雲は“とてつもない高給取り”

借金返済したら、突然同情が嫉妬に変わる松江の人々……NHK朝の連続テレビ小説「ばけばけ」第18週は、とんでもない展開だった。

ついに借金を返済したトキ(髙石あかり)がヘブン(トミー・バストウ)らに感謝を述べてパーティーをするまではよかった。それをたまたま取材に訪れた梶谷(岩崎う大)が記事にしたものだから、突然事態は一変。トキは頭に石をぶつけられ、松野家の前にはゴミがぶちまけられることに。

これは、街を挙げて「ばけばけ」を楽しんでいる現代の松江市民に対する風評被害‼

史実でも、八雲と結婚した後にセツが「洋妾」呼ばわりされたわけで、やっかみがあったのは事実だろう。

確かに、一般市民からみれば「上手いことやりやがって」と嫉妬する面は否めない。なにしろ、八雲は月給100円の高給取りなのだ。しかも、アメリカでは文豪として知られていることも新聞を通じて知っている。

月給100円はとてつもない高給だ。教員でも役人でも、給料が高くて20円程度な人はザラにいる。それでも家族を支えている。でも、八雲は月給100円と聞けば「え、外国人ってだけで、そんなに違うの」と複雑な思いを持つ人も少なくなかったはずだ。ようはセツの養家の稲垣家と小泉家の面々は、いわば八雲にたかる寄生虫のように思われていたのである‼

人々の邪推、噂話が広まっていたと推測できる

そうなると、矛先になるのは、一緒に暮らしている(奥様と認識しているとは限らない)セツであろう。

当時、大抵の松江の人々にとって、八雲は「町で見かける外国人の先生」でしかない。道ですれ違ったことはあっても、話をしたことなどない。英語教師として学校に勤めているらしい、という噂は聞いている。月給100円という破格の待遇らしい、ということも耳に入ってくる。

そんな八雲の家に、いつの間にか若い女が住み着いている。

そうなると「あの娘はなんだ」と思い、当時の常識として「ああ、妾か」と考える。しかも、没落した士族の娘ともなれば、邪推は尽きない。勝手に想像した噂話が真実として広まっていく。

「借金を返すために、身を売ったんだろう」
「月給100円だからな。いい暮らしができるわけだ」

とにかく口さがない噂がどんどん広まっていったはずだ。特に、セツの実家(養家)である稲垣家に対しての噂はひどかっただろう。それは当たり前だ。当時の松江は没落した士族たちが、食うや食わずで暮らしている街である。同じ士族たちが「稲垣だけ、上手いことやりやがって、ずるい」と盛んに噂を流したことだろう。