広告費なしで1億円を売り上げた
三重県桑名市、細長く平らな焼き餅につぶあんを包んだ名物「安永餅」や、希少な地ハマグリの産地として知られる一方、鋳物の町としても名高い。
桑名の鋳物は江戸期の鉄砲製造に始まり、明治・大正期には「東の川口、西の桑名」と称された。そんな桑名発の一品が料理好きの間で注目を集めている。岡田鋳物のフライパン「IMONOPAN」だ。
一般的な鉄のフライパンは、食材をおいしく調理でき耐久性にも優れている一方、焦げ付きやサビを防ぐための油ならし(シーズニング)が必要だったり、洗剤で洗えなかったりと、手入れが面倒な側面もある。
だがIMONOPANは鉄板に独自の熱処理を施し、買ったその日から洗剤で洗えて、シーズニングも不要という革新的な仕様を実現。Instagramと自社ECサイトを中心に販売し、これまでの累計売り上げは1億円を超えている。さらに「広告費をかけていない」というから驚きだ。
しかし過去には、景気悪化による受注減少や、在庫の山を抱えた時期もあった。
好景気の面影なく、甘い考えは崩れた
1973年に創業した岡田鋳物。当初はすき焼き鍋やジンギスカン鍋を扱っていたが、海外製品の流入で鍋事業は縮小。現在はメーカーの下請けとして周辺工場と連携し、マンホール部品や道路部品なども手がけている。
「『桑名の鋳物関連は全部お任せできるよね』みたいな感じで、たまにメーカーさんからは『フィクサー』なんて言われたりもします」
笑顔で答えたのは3代目の岡田和也さん。現在38歳。
22歳から5年ほど東京でウォーターサーバーの法人飛び込み営業をしていた岡田さんは、「いつか鋳物の世界に入りたい」という思いを抱いていた。というのも祖父・父の代は好景気に恵まれ、特に祖父の代には「市内の長者番付は鋳物屋ばかり」と言われるほど、業界全体が潤っていたという。
そんな話を聞いて育った岡田さんは2015年、27歳で家業に入ることを決意する。しかし、待っていたのは幼少期から見てきた華やかな鋳物業界とは全く異なる、厳しい現実だった。
「メーカーさんの景気悪化で受注が減って。当時は僕に月20万円ほどの給料が出ていたんですが、僕の給料を出すために両親がゼロにしていた月もあったらしく……」
好景気から一転、年間の売り上げはピーク時の5分の1まで落ち込んでいた。「仕事はあるもの」と思って入った鋳物業界だが、そう甘くはなかった。
仕事が途切れることも増え、時間ができた。そんなとき、「自分で使いたい」という理由で製作したのが、フライパン型プレート「IMONO PLATE」(2022年)だった。


