親に「話が通じない」――。その原因はたった一つの脳の仕組みだった。脳のスペシャリストが父親・母親との接し方のコツを伝授する。

親に話が通じないのは正解を確信しているから

「年老いた親がこちらの話を聞かない」「忙しいのに親が何度も電話してきてうんざり」なんて悩みはないでしょうか。年をとった親と、50代中盤を過ぎた子供との会話がうまくいかないのは脳の仕組み上、当然なのです。

親が子供の提言に耳を貸さないのは、脳のとっさの判断が素早く、その判断が正しいと深く確信しているからです。いわゆるプロの勘ですね。「自分の人生」のプロになったということです。

脳は経験を積むと、とっさの判断が早くなり、いきなり確信に至るようになります。プロアスリートや匠の技のように。それが「人生の日々の判断」にも起こり、人の話に耳を貸さなくなるのです。特に自分の子供に対しては、育てた自分より絶対的に経験が足りないと思い込むため、言うことを聞かない傾向が強く出ます。「病院に行ったほうがいい」と言われても「どこも悪くないから」と言って行きませんし、子供を持ったほうが幸せだと確信しているから「早く子供を持て」と言うのです。ある程度年齢を重ねた子供のほうも自分の判断に自信を持つようになっていますから「なぜうちの親は話が通じないんだろう」と苛立つわけです。

脳の観点で考えると、これは老いというより成熟です。脳の学習が究極まで進み、脳の判断がいきなり確信の域に入るのです。ある日突然「確信の脳」になるのではなく、徐々に経験によって判断が確固たるものになるのです。

ヒトの脳を装置(システム)として分析すると、28年ごとに装置の性質が変わります。28歳までは入力期で、あらゆるものを取り入れて神経回路を増やす時期です。脳の中に選択肢が山ほどある状態と考えてください。

数多い選択肢が並列であると、とっさの判断はどうしてもつきにくい。そこで私たちの脳は選択肢に優先順位をつけていきます。特に失敗の経験がその立役者。痛い思いをすると、失敗に使った回路のニューロンの受容体の閾値を上げて電気信号を行きにくくし、成功して嬉しい思いをすれば、その回路に信号を行きやすくします。「勘」を育てるには、意外にも失敗のほうが有効です。幼子は、歩くまでに何度もよろめいたり転んだりするでしょう?

あれは二足歩行の勘どころをつかむまでの道のり。私たちの人生はこれの繰り返しです。ちなみにAIの学習の原理もこれと同じです。AIは人間のニューロンの機能をコンピューター上に搭載したものですから。

28歳を過ぎると、脳神経回路は絞り込みの期間に入ります。多くの失敗と、時々の成功による学習を重ねて、仕事や暮らしの達人になっていく。そうして28〜56歳前後で、脳は出力機能最大期に入ります。脳には学習を十分に重ねたという実感がありますから、判断が早く、また判断とほぼ同時に確信も覚えます。この感覚は健康でさえあれば84歳ごろまで続きます。この年齢層は時代の変化に左右されない普遍の真理を見据える能力が抜群。ただし、事業は時代の風に帆を合わせることも必要です。現役で活躍するには、他者の意見がくだらないと思っても耳を貸すセンスが不可欠です。

この確信力が悪いほうに働く最たる例は高速道路逆走です。自分に向かってくる他のクルマに対して「何やってんだ」と腹を立てているそうです。それくらい「自分は正しい」という確信が深い。これこそ「年寄りは頑固だ」と言われるゆえんなのです。

プロセス指向の母、ゴール指向の父

年齢とともに頑固になる傾向に男女差はあまりありませんが、若いころは脳の使い方に男女差があります。男性の多くは素早く目的地を目指すゴール指向で、結論を先に話す話し方を好みます。女性の多くはゴールに至るまでの経過を重視するプロセス指向で、ゴールに至った過程を全部話してからしか結論を言う気になれない。この癖が残っているので、父親と母親では話の内容や話し方も違います。