認知機能が衰え始めても、自分では気づかない。元気なうちに手を打たないと、子どもの世代に迷惑をかける。先祖の墓、実家の空き家、自分の資産、物の片づけ――。FPの畠中雅子さんに、やめ方を聞いた。

墓じまいするはずが400万円の出費に

終活というと、「60代前半」「60代後半」「70代前半」「70代後半」の4区分でスケジュールを組む記事を見かけますが、正直、私はその区切り方が実態に合っていないと思っています。終活の準備は、65歳から74歳の10年間の一択です。

65歳はおおよそリタイアして年金をもらい始めるタイミング。75歳からは、「後期高齢者」です。75歳を過ぎると認知機能がどんどん低下し、判断力が落ちていく可能性がある。この2つの節目に挟まれた10年が、終活のほぼすべてを「自分で決められる」時間です。今64歳の人には10年残っている。69歳の人には5年。73歳の人は、もう残り少ない。まず自分の年齢で、残りの終活準備期間を計算してください。

【図表】65歳から74歳までの10年間に「自分で決める」

墓じまいについての私自身の失敗談から始めましょう。私と妹は女きょうだいだけなので、そろそろ、「畠中家の墓じまいをしよう」と決めていました。実はいろいろな事情があって、母は私が若い頃から「あのお墓には絶対に入らない」とずっと言い続けていました。だから「母は父の墓には入らないんだな」と思い、そのまま墓じまいして樹木葬か合祀墓にすれば済む話だと、妹と二人で思っていたのです。

その準備に離檀料の相場を確認してもらおうと、実家近くのお寺に定期的に通っている母に「それとなく聞いてきて」とお願いしました。しばらく後にお墓参りに行くと、お墓があるはずの場所にない。墓じまいが済んだのかと思ったら、違いました。墓地の陽当たりのいい場所に、ピカピカの新しいお墓が立っていたんです。「どうしたの?」と聞いたら、墓石代に200万円、お寺への支払いに200万円、トータル400万円払って建て替えていた。「もう……何やってるの、お母さん!」という気持ちでした。

母は私に怒られると思って黙っていたようです。都会のお墓は管理料が高く、どんどん檀家が抜けていく。まだまだ引き止めようとするお寺さんが今でも結構いらっしゃいます。そして年を重ねると、人間は視野が狭くなっていきます。若い頃は周囲のことを考えながら理路整然と判断できていた方でも、年を経るごとに選択肢がシンプルになっていく。「綺麗なお墓になったんだから、ここに入る」と正反対の方向に母は気持ちが変わったようです。

墓じまいの話は、親が元気で理路整然と話せるうちに子ども側から切り出すべきです。「言いにくい」「親が怒る」という声をよく聞きますが、聞かないまま先送りにすると、後で子どもが心残りになります。お勧めしたいのが、紙に手書きで質問書を作って渡す方法です。エクセルで作った資料より、手書きの紙のほうが「頑張って作った感」が伝わります。「都合のいいときに返事を書いてね」と渡しておけば、親も構えずに書いてくれるでしょう。

費用の目安は、墓の撤去(石材の解体・搬出)が30万〜70万円程度で100万円もかかりません。ただしこの金額はお寺さんの言い値になりがちです。必ず近くの石材業者に「墓石の撤去料の相場はいくらですか」と先に聞いておきましょう。お寺から提示された金額が相場とかけ離れていたら、石材業者の相場をエビデンスとして出せます。

離檀した後はもう付き合わないわけですから、多少愉快ではないやりとりになっても構わないと思います。

改葬先として今一番増えているのが樹木葬で、新規件数はすでに一般墓の倍以上。屋外なので建物の老朽化などの心配がなく、費用も改葬費込みで数十万〜200万円が多い。海洋散骨(相場は25万〜35万円程度)という選択肢もありますが、監督官庁がなく悪質業者も入り込んでいるため、骨は水に溶ける加工をしているか、翌年の一周忌にも船を出せる実績があるかどうかを必ず確認してください。

実家の空き家は3年以内に売る

実家の空き家は「売れるなら、とにかく早く売る」が基本的な考え方です。相続が発生してから3年以内に売却すれば「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの(譲渡所得の)特例」が使え、売却益から最大3000万円が控除されます(相続人が3人以上の場合は2000万円まで)。1981年以前の旧耐震基準建物は耐震補強か更地にする条件がつきますが、解体費用を差し引いても手取りが2000万〜3000万円以上になるなら、3年以内に手放したほうが得策です。でないとこの特例が使えなくなるだけでなく、次世代の従兄弟間など相続人同士でのトラブルの種になります。

「とりあえず更地にして土地だけ持とう」という方もいますが、更地にすると固定資産税が上がります。家が立っている間は「住宅用地の特例」で軽減されているためです。更地にするなら売却まで一気に動きましょう。更地のほうが「古家あり」のまま売るより高く売れるのが一般的です。

それでも売れない場合は「相続土地国庫帰属制度」(法務省)という選択肢もあります。更地にして利用しやすい土地なら国が引き取ってくれる可能性がありますが、国も欲しい土地しか受け入れないため、まず法務省のホームページで条件を確認してください。なお2023年の空き家対策の推進に関する特別措置法改正で「管理不全空家」も固定資産税の軽減から外れました。「特定空家」に指定されると住宅用地の特例が外れ、固定資産税がかなり増額になる可能性があります。

介護施設は、自分の足で見学しておく

私がいつも相談者にお伝えしている「AさんとBさん」の話をさせてください。同じ介護施設に入居しているAさんは自分で施設を見学して選んだ方、Bさんは家族に入れられたと思っている方です。同じ施設、同じサービス、同じ費用なのに、Aさんはスタッフにいつも「ありがとう」と感謝して、スタッフと仲良く、幸せに過ごしている。Bさんは「こんなところ入りたくなかった」と思いながら文句ばかり言って嫌われ者になっていく。これほどもったいないことはありません。

だから65〜74歳の前期高齢期のうちに、自分の足で施設を見学しておいてほしいのです。

紹介業者が案内してくれるのは「高くて空いている」か「人気がなくて空いている」かのどちらかが多い。本当に良い施設は満室に近い運営をしていますから、自分で動かないとたどり着けません。

私はあるテレビ番組で高齢者施設を紹介するコーナーにときどき出演しています。400回以上施設を見学してきているからです。見学の際に私が必ず実践するのは、駅から施設までの道を自分の足で歩くこと。歩道と車道が分かれているか、傾斜がないかを確認します。傾斜があれば車椅子では一人で外に出られません。

入居者にランダムに話しかけることも大切です。認知症の方の場合、会話はかみ合わないこともありますが、そのときのスタッフの反応を見れば、その施設の文化がわかります。良い施設は、私が認知症の方と話していても温かく見守ってくれる。評判の悪い施設はすぐにどこかに連れていってしまいます。こういうことは実際に自分が体験してみないとわかりません。

私自身は62歳の今、すでに「認知症になったらこの施設に入れてほしい」と子どもたちに指定しています。認知症になったら自分では伝えられないからです。

特に広い戸建てにお住まいの男性の場合、いきなり20平方メートル前後の施設に移ると徘徊につながることもあります。いったんマンション(40〜50平方メートル程度)に住み替えて共同生活に慣れ、後期高齢期になってから施設へ移るのが、私が考える理想のパターンです。マンションなら賃貸に出しやすくなるので資金計画も変わります。

エンディングノートより「紙」に書くべき理由

延命治療や検体の意思表示についても、判断能力があるうちに方向を決めておいてください。信頼できる身元保証会社として「NPO法人りすシステム」「NPO法人きずなの会」「一般社団法人身元保証相談士協会®」「公益社団法人シニア総合サポートセンター」があります。私自身が相談者に同行して確認した身元保証会社です。特に子どもがいない方は、死後事務(電気・ガス・水道の停止や年金手続きなど)まで含めて委任できる身元保証会社の活用を検討してください。たとえば「りすシステム」のホームページには「医療上の判断に関する事前意思表示書」が掲載されています。病名・余命の告知を受けるか、どの治療を望み、どれを望まないかなどの意思を細かく書き込めるフォーマットなので、これを参考にするのもよいでしょう。

【図表】用途別「判断力があるうちに」手書きで書いておくこと

ここまでお話しした墓の希望、介護施設の選定、延命治療の意思はすべて「紙に書いて残す」という行動によって初めて機能します。「自分で決める」とは、頭の中で考えることではなく、紙に書くことです。私はエンディングノート一冊にまとめることはお勧めしません。用途が違うものを一冊に混在させると、使う場面ごとに開いてもらえなかったり書き換えが面倒になったりするからです。私自身はいくつかの「紙」を用途別に使っています。

子どもが判断できない最たるものが「葬式に呼びたい人」と「葬式に呼びたくない人」です。故人が長年会いたくなかった相手でも、その相手が「自分はあの人の友だった」と思い込んで駆けつけることがある。だから特に「呼びたくない人の名前」は本人にしか書けません。質問書は手書きで作って渡しておく。葬式の意向から始めて、お墓の希望、入りたい施設の希望と、書きやすいところから少しずつ埋めてもらいます。

「家族が財産を把握できる書類」として相談者にお勧めしているのが「貯金簿®」です。これは大学ノートを使ってもらい、2カ月ごと、年金受取月の15日以降に、すべての金融機関の残高を一覧で記入する仕組みです。

預貯金・有価証券・貯蓄型保険をまとめて書き込み、6回記入すると1年分の資産の増減が一目でわかります。有価証券は証券会社名・口座番号・残高も記入します。「どこにいくらあるかわからない」問題は、貯金簿®一冊で解消できます。65歳になったらまずこれを始めてください。

【図表】すべての金融資産の残高を、「貯金簿」に2カ月ごとに記入していく

有価証券や複数ある証券口座は75歳になる前に少しずつ換金・統合しておくことが大切です。認知症と診断されると、運用商品を換金しようとしてもうまくいかない実例を私は何件も見ているからです。

NISA・iDeCo口座、ネット銀行、サブスク、SNS、スマホのパスコードなどは「パスワード帳」という紙のノートで一冊にまとめます。ポイントは丸々そのままを書かないこと。「いつもの8桁」「いつもの10桁」など、自分が使っているベースの桁数は書かず、それに追加している部分だけを書きます。「いつもの○桁」の中身は家族に口頭で伝えておく。ノートを盗まれても「いつもの○桁」を知らない人には解読できない仕組みです。

A5判のノートを使って見開き1ページに金融機関やSNSを一つずつ割り当て、パスワードが変わったら書き換えていく。デジタルのメモ帳はクラウド流出リスクがあるので、パスワードは紙で残したほうが安全です。iPhoneのパスコード自体も必ず家族に伝えておくこと。業者に解除を頼むと20万円以上かかることもあります。貯金簿®でどこの口座にいくらあるかがわかり、パスワード帳でログインできれば、家族はほぼすべての資産状況が把握できます。この2冊を揃えることが、デジタル終活の完成形です。

ブランド品・時計・貴金属(特に18金・24金)の処分は、複数の買取業者に自分で持ち込んで相見積もりを取ってください。金は今、価格の高騰でかなり良い値がつきます。ただしやってはいけないのは、見ず知らずの業者を自宅に呼ぶことです。家に来られると相手のペースになり、売るつもりのないものまで根こそぎ持っていかれます。65歳を過ぎたら、少しずつ進めていきましょう。

蔵書・コレクション類は要注意です。私の伯父が中国研究者で、亡くなった後に膨大な蔵書の処分で大変な思いをしました。自分には「ただの本の山」としか見えなくても、教え子たちから「バラバラにしたら価値がなくなる」と電話が次々にかかってきて、結局書物を保管する部屋を約1年間借りることになりました。専門的なコレクションを持っている方は処分前にその分野の専門家や愛好家コミュニティに必ず声をかけてください。

「自分で決める」とは、お墓も施設も財産も、元気なうちに考え、紙に書き、家族に伝えておくことです。どれも「いつかやろう」では間に合いません。65歳になったその日から、すぐに始めてください。

畠中 雅子 Masako Hatanaka
ファイナンシャル・プランナー(CFP®)。「高齢期の住まいとお金を考える会」代表。マネーライターを経て、1992年よりファイナンシャル・プランナーに。メディアへの掲載件数は1万件以上。2002年から始めた高齢者施設の見学は400回を超える。

※本稿は、雑誌『プレジデント』(2026年6月12日号)の一部を再編集したものです。

(構成=西川修一)
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