パートナーとの仲を保つためには、コミュニケーションの質を高めるべきだと考える人は多いはず。だが、脳の専門家はそれを誤解だと指摘する。夫婦仲の維持に必要な「脳」の整え方とは何か。

「最近、意見が合わない」は脳の常識では当たり前

夫婦間の喧嘩や衝突は、なぜ起こるのでしょうか。

一般的には「コミュニケーション不足」「価値観のズレ」「リスペクトの欠如」「倦怠期」といったことが挙げられますが、脳科学の観点から見るとこれらはすべてきっかけにすぎず、本当の原因ではないと考えられます。実は、夫婦仲の問題の根底には、脳の生理学的背景があるのです。

生理学的背景、というと難しく聞こえますが、そんなことはありません。いわば「夫婦そろって脳がきちんとパフォーマンスを発揮できる状態にあるかどうか」ということです。

よく眠れていて、栄養も足りていて、ホルモンのバランスも整っている。そういう状態の脳は、相手の言葉や言動をうまく受け止めることができます。逆に疲れきった脳は、些細な一言にも過剰に反応してしまう傾向があります。もし同じ夫婦が同じ会話をしても、脳の状態次第で、穏やかな対話にも激しい喧嘩にもなりうるのです。

この点を理解しないまま、パートナーとの仲を改善しようとしても、一時的であり、おそらく思ったような効果は得られないでしょう。記念日を祝ったり、日ごろの感謝を伝えたりといった行動は悪いことではありませんが、根本の解決にはならないのです。

世間では「結婚10年目で危機が訪れる」「20年目には倦怠期が深刻なものになる」というような、夫婦関係の時間軸で関係が変化するように語られることがありますが、私はそれほど的確な説明ではないと考えています。

なぜなら、夫婦の危機的な衝突は結婚してからの年数ではなく、夫婦それぞれの「年代」と、その年代特有の「脳の状態」によって起こりうるものだからです。

脳は、生まれてから死ぬまで、ずっと同じ状態でいるわけではありません。成長し、成熟し、やがて老いていきます。大まかにいうと、30歳が「脳の成人式」にあたります。脳の各部位がひと通り育ち、ここから認知機能がどんどん伸びていくという時期です。そして45歳から55歳ごろが全盛期で、経験も判断力も最も充実します。そして55歳を過ぎると、今度は老化のベクトルが強まっていきます。

認知機能とは、ものを考えたり、記憶したり、感情をコントロールしたりする総合的な脳力のことです。つまり、50代以降の夫婦喧嘩は、相手や関係性のせいというより、脳が成長、もしくは退化することによって起こっている可能性があります。

たとえば「若いころは価値観が合っていたのに、最近は意見が合わないことが多くなった」という悩みは、ある意味で当たり前のことです。人間の脳は成長するにつれてどんどん個性的になっていき、人によってまったく異なる形になるからです。