相談ごとはAIにして上司にはしない部下、大事な決定はAIに任せてしまう上司。AIばかりに援たすけを求める人が増えている。なぜ、人には相談せずにAIに相談したくなるのか。

人間に相談するのはそもそもハードルが高い

近年、職場の悩みをAIに相談する人が増えている。内閣府消費者委員会事務局が実施した満10歳以上の全世代を対象とする調査*では、AIを利用する人の23.3%が悩み相談をしており、若い世代ほどその数値は高い。10代の女性に限っては52.4%と、半数以上がAIにお悩み相談をしている。さらに、30歳未満の半数以上がAIによる人間関係や人付き合いのアドバイスを「とても信頼している」もしくは「ある程度信頼している」と回答している。なぜ、AIに相談する人が増えているのだろうか。

*「生成AI利用者の利用実態に関するアンケート」令和8年2月16~18日 インターネット調査/満10歳以上かつ日本在住、AI利用者1442人が対象

「人が人に相談することは、実は心理的にも物理的にも、ハードルが高い」と指摘するのは、筑波大学教授(臨床心理学)の原田隆之氏だ。

「なぜ人に援助を求めるのが難しいのかは、心理学における一大テーマで、たくさんの研究があるほどです」

心理的要因としては、悩みを相談する際に、自分自身の心の中を開示して弱みをさらけ出すことへの不安がある。能力が低いとバカにされるのではないか、上司からの人事評価が落ちるのではないか……といった懸念が障壁となる。そのうえ、人間の相談相手は必ずしも自分に同意してくれるわけではない。その考えは間違っていると否定されるおそれもある。

上司が忙しそうにしていたり、相談しても頼りないなど、適切な相談相手がいないという物理的要因も、AIを頼りたくなる気持ちを加速させている。

「『自分のことは自分でするべき』『人に頼るのは恥ずかしい』といった信念(認知)があったり、そもそも人に助けを求めるという選択肢を思いつかない人もいる」と原田氏は語る。

AIへの相談は、人間に比べてハードルが低い。心理的には相談内容がどれほど未熟な内容でも否定せず、感情的になって相談者に怒るということもない。物理的には24時間いつでも話を聞いてくれるし、どんなに些細な質問にも即座に回答を返してくれる。

「人間の心理の根本原則には、自分が何か行動を起こした際に、望ましい結果(報酬)が伴うと、その行動を繰り返し、さらに頻度が増えるということがあります。学習心理学ではこれを『強化の原理』と呼びます」(原田氏)

職場の上司よりもAIのほうが望ましい慰めの言葉やアドバイスをもらえたという経験を重ね、夜な夜なAIに人生相談を繰り返す習慣が加速する。

(文=力武亜矢)