正確な計算は不要意識すべきは「桁数」
ビジネスシーンや日常生活で、一見小難しい計算をパッとできる人と、そうではない人がいます。私は大人のための数学教室を、これまで3万人以上に向けて行ってきました。その経験からわかるのは、「数字で即答できる人」と「できない人」の差に、皆が想像するような「計算力」はあまり関係ないということ。キリのいい数字にしたうえでざっくりと計算したり、覚えておくと計算が格段に楽になる数字を覚えたりと、コツさえ摑つかめば、誰でも「数字に強い人」になれるのです。具体的には、次のページから紹介している12個のテクニックが役立ちます。
大前提は、たいていの場合「計算はざっくりでいい」ことです。1の位まで間違えないような精度は不要で、とっさの計算はむしろ「キリのいい数字に丸めて、扱いやすくする」のがおすすめです。数字が苦手な方に非常に多いのが「すべての桁を、きちんと計算しないといけない」という先入観があること。経理など、1円もズレない正確な計算が求められる職種もありますが、一般的に、数字に基づいた判断や解釈をするうえでは、厳密な計算は求められないケースがほとんどです。たとえば年商1億円の飲食店の月商を出す際に、12で割って「833万3333円」と1円単位で出す必要はなく、「約830万円」とする「ざっくり計算」で問題ないのです。年商1億円、月商830万円の飲食店は、さらに30で割って1日約27万円。客単価1000円と仮定した場合、1日270人が来店します。営業時間が12時間だとすれば、1時間に20人ちょっと、つまり3分に1人は来店がある繁盛店という解釈ができます。数字を見てこのような意味付けができるようになると、数字や論理で考えている信頼感がある人だという印象になります。
ざっくり計算の目的は、答えを暗算で素早く導き出し、数字に意味付けをすること。鉄則は、「桁を間違えない」です。その次に、頭の数も間違えないようにすれば、あとは多少間違っていてもよいです。数字が苦手な方は、最後の1桁の計算は注意を払っているのに、桁を間違えているケースが散見されます。120万と100万くらいであれば、概算だからと言い逃れができますが、100万と10万では、全く異なる数値です。
数字が苦手な方が克服しようとするときにやりがちなのが、いわゆる算数のテキストで筆算だけ練習をすることです。けれど「算数ができる」と「数字に強い」は違います。もちろん基本的な計算の練習をすることも重要ですが、数字に強いというのは、数字に意味を宿すことができる人です。
「基準となる数字」を知れば意味が見える
ここで重要になるのが「キーナンバー」を覚えることです(下図⑫参照)。たとえば日本の国家予算が100兆円ちょっと、日本のGDP(名目)は約700兆円などがあります。これを基準として知っていることで、建設業界の国内市場規模が約70兆円、AI業界は約1兆円という数字の意味が見えてくるはずです。基準となる数字を知らないと、なかなか意味を持たせるのは難しいものです。私はお笑い芸人の動画を見るのが好きなのですが、「面白くない芸人」がいるからこそ、比較されて「面白い芸人」が際立ちます。どんなことも、比較対象がいないと、意味付けするのが難しいのです。
もともと数字が苦手でも伸びる人に共通するのは、身近なシーンで数字を使おうとする人です。仕事でも趣味でも、とっつきやすいところから始めていただいて構いません。覚えておきたいキーナンバーを押さえ、少しずつ数字の幅を広げていきましょう。ゴルフが好きな方であれば、「ヤード」という単位から始めて「1ヤードは約90センチメートルだから、200ヤードは約180メートル。不動産の表示では徒歩1分は80メートルだから、200ヤードは2分強歩いた距離だな」など、概数を使ってざっくり計算をしながら、身近なものに数字を紐ひも付けていってみましょう。数字がぐっと親しみやすくなり、苦手意識も減っていきます。覚えやすいところから入り、どんどんバリエーションを増やしていくことで、比較し、数字に意味を持たせやすくなっていきます。数字に意味を持たせることで、さらに数字が頭に入りやすくなります。
先ほども例に出した「日本の国家予算」を質問すると、ニュースや新聞で何度も目にしているはずなのに、意外と記憶になく、桁もわからない方が多いのです。数字だけ見ていても、その数字が何を意味するか、紐付いていないからです。国家予算をわかりやすく丸めて100兆円としましょう。約1億人の日本国民が税金を払ってその予算を作っています(実際は国債の発行などもあり全額ではありません)。100兆を1億で割ると、ひとり年間100万円を払っているという妥当な数字が出てきます。10兆円ではひとり年間10万円で安すぎますし、1000兆円ではひとり1000万円で高すぎるため、一度知ればもう間違いようがありません。冒頭に話した「桁を間違えない」鉄則の話にも重なりますが、かなり丸めた数値の計算でも、桁が合っていれば、感覚を摑めることがおわかりいただけたはずです。
ちなみに、もっと最初の一歩としておすすめしたいのが、計算の瞬発力を鍛えるドリルの「100マス計算」です。大人でも暗算のタイムがどんどん縮みます。大切なのは、計算しようと思って計算するのではなく、数字を見た瞬間に思わずざっくり計算してしまうという癖です。
AIに計算を任せるのはなぜダメなのか
「ざっくり計算でよい」と割り切り、数字に対する瞬発力を鍛え、キーナンバーを徐々に覚えていく。この3つを意識するだけで、少しずつ数字に強い人になります。今はスマホの電卓アプリやエクセル、AIなどで、誰でも正確な数字がすぐに出せる時代です。ですが、だからこそ、むしろ人間のざっくり計算力は必要になります。電卓やエクセルは、無自覚な入力間違いが発生するので、人間が最終チェックをする必要があります。急速に発展を遂げているAIは大きい数の計算は苦手で、私が計算させてみても間違っていたケースがよく見られましたし、ハルシネーションを起こすこともままあります。また、AIが出力した答えを人間が鵜う呑のみにして間違えていた場合、責任の所在が問題となります。AIをそのまま信頼するのではなく、出力されたものを理解し、解釈し、責任を持って意味付けを保証できる人が必要です。ざっくり計算で素早く解釈をして、数字をもとに行動する。それこそが、AIに代替されない人間の役割です。
和(わ)から代表。1984年、新潟県生まれ。2010年、日本初の大人向け数学教育事業「大人のための数学教室 和(なごみ)」を創業し、これまで3万人以上を指導。著書に『仕事ができる人がやっている「ざっくり計算力」を身につける』(青春出版社)など。
※本稿は、雑誌『プレジデント』(2026年9月4日号)の一部を再編集したものです。
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