データをつくる経験から鵜呑みしない目を鍛えた
数字のデータと人間の心理。それが鈴木敏文流経営学の二本柱だった。そのため「データ主義」「心理学経営」とも呼ばれた。
原点は、イトーヨーカ堂に転じる前の出版取次のトーハン時代だ。当時23歳。昭和30年代初めで出版業界はまだ近代化されておらず、統計らしきものがなかった。出版関連のデータを収集分析するため、大学の先生を招いて統計学と心理学の講義を受けた。
データの納得性を高めるには学術的に調査する必要があり、統計学を懸命に修得した。読者インタビューを行う際、誘導により回答者が心理的な影響を受けないよう質問の仕方が重要で、心理学の知識も不可欠だった。「本当に猛勉強した」と鈴木氏は振り返る。この間データをつくる側を経験したことで、世間に出回るデータを見ても必ずしも鵜呑みにしない目が鍛えられ、ちょっとした数字の変化にも突っ込んで考える習性を身につけた。
筆者が鈴木流の数字の読み方の極意を実感したのは、「ABC分析の本当のようなウソ」を取材で教えられたときだった。
ABC分析は商品管理でよく使われる手法で、それぞれの商品について、売上高の大きさによりABCの3ランクに分け、Aランクを「売れ筋」の最重点商品として管理していく。鈴木氏によれば、このABC分析には「落とし穴」があるということだった。
たとえば、ある商品について、X、Y、Zの3種類があり、Xは80個仕入れたうち60個が、Yは50個のうち40個が、Zは20個中20個が売れた。次はどの種類を多く仕入れるか。
実はXは3日間、Yは2日間、Zは1日の販売データだった。
「結果データだけ見れば、売り上げトップはXですが、買い手から見て、1番の売れ筋はZです。1日で売り切れたのは、みんながこんなものがほしいと思っていた商品だったからです」
と鈴木氏はいった。XやYが売れたのは、Zが2日目以降は店頭になかったからかもしれない。
「われわれはつい売り手側の発想で、どれが一番多く売れたかに関心が行きがちです。しかし、それは昨日までの売れ筋商品です。数字を記録として見るのと、マーケティングに使うのとでは、まったく読み方が違う。売り手側から買い手側へ、過去から未来へ、視点を変えると数字は別の意味を持つようになる。売れた量の結果データだけを見て、将来的なマーケティングを考えるのは大間違いです」(鈴木氏)
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