2026年5月、セブン&アイ名誉顧問の鈴木敏文氏がこの世を去った。日本のコンビニの生みの親である同氏は、数字を使った仮説と検証を重視していた。人間の心理をどう読み解いていたのか、過去の本誌インタビューから紹介する――。

ロイヤルティは「率」で戦うか、「額」で戦うか

出所:2010年6月14日号

――セブン‐イレブンを日本で創業した鈴木氏。創業時、アメリカの本家とロイヤルティ(権利使用料)をめぐる交渉があった。先方の要求は売上高の1%、日本側は0.5%。鈴木氏は、この隔たりをどう埋めたか。

セブン‐イレブンを日本で創業するため、本家の米サウスランド社(現セブン‐イレブン・インク)のトップと交渉したときのことです。交渉は難航し、ロイヤルティの率で最後まで揉めました。先方が要求したのは売上高の1%、こちらの主張は0.5%で、あまりにも大きな隔たりです。

しかし、率をテーマにしている限り、相手の手の中での話になってしまい、どんなに話術を駆使しても、隔たりを埋めるのは容易ではない。そこで私は、率をテーマから外そうと考え、提案しました。「あなた方が最終的に求めるのはロイヤルティの額でしょう。ならば、率を下げて、われわれが出店資金を確保しやすくし、店が増えて成功すれば、結果として額は上がっていく。率を上げるより、額を上げる考え方をしたほうがいいのではないか」と。これは「話術」ではなく、「論法」です。結局、先方が大幅に譲歩し、0.6%で妥結しました。

先方の判断には理屈だけでなく、心理的な要素も多分に影響していたと思います。人間は利益と損失を同じ天秤では測らず、利益より損失のほうを大きく感じます。1万円もらえる満足より、1万円失う痛みのほうがこたえる。ロイヤルティの率を下げるのは、先方にとっては得られるお金が失われる話で、心理的に大きく感じられ、不満を感じたでしょう。だから容易に受け入れられなかった。

そこで率から離れ、額に目を向けさせる。得られるお金の話にする。率を下げるのは損失ではなく、利益に結びつくとわかれば、不満から期待へと心理が逆転する。話術ではなく、相手の心理を読んだ論法によって、初めて可能になる。

鈴木氏は仮説を立て、相手が本当に欲しい別の数字へ注目を切り替えることで、突破口を開いた。
正解:率を捨て額で勝つ

全部違う「5個」か、売れ筋だけの「5個」か

出所:2006年4月3日号、2009年1月12日号、2011年7月18日号、2015年10月5日号

――セブン‐イレブンの強みの一つが「単品管理」だ。店頭で商品が売れたときに記録されるPOSデータをマーケティングに活用したのは、世界初の試みだったという。鈴木氏は、限られた棚をどう使ったのか。

各店舗では、お客様にとって、ほしい商品が、ほしいとき、ほしいだけあるように売れ筋を絞って十分にそろえ、死に筋を排除する。欠品による機会ロスと売れ残りによる廃棄ロスを最小化していくため、単品ごとに仮説を立てて発注し、POSで結果を検証する。アメリカではPOSは主にレジの打ち間違いや不正防止が目的でしたが、マーケティングに活用したのは日本のセブン‐イレブンが世界初でした。

(聞き手・構成=勝見 明 撮影=市来朋久)