「ビッグマック」は米国で平均6.12ドル。1ドル162円なら約990円。日本では500円だから、ほぼ半額だ。「日本の物価は安い!」と喜んでいいのだろうか。材料費は同じはずなのに、値段が違う本当の理由とは――。

アメリカが高いのか日本が安すぎるのか

アメリカのマクドナルドでビッグマックを注文すると、平均で6.12ドル。1ドル=162円で換算すれば約990円です。「アメリカの物価は高い」と驚く人が多いでしょう。一方、日本のビッグマックは単品500円。ドル建てに直すと約3.09ドルで、アメリカのほぼ半額です。海外から見れば「日本は安い!」となり、日本人にとっても「海外より安くてお得」と思えるかもしれません。しかしこの「安さ」、手放しで喜んでいいものなのでしょうか。

この安さを測る物差しとしてよく用いられるのが、英「エコノミスト」誌の「ビッグマック指数」です。厳密にいえば、同誌は各国のビッグマックの値段を調べ、それをもとに「購買力平価」を計算しています。購買力平価とは、同じ商品が2つの国で同じ値段になる為替レートのこと。「同じものは、どこで買ってもほぼ同じ値段に落ち着くはずだ」という考え方が土台にあります。この購買力平価と実際の為替レートを見くらべれば、その通貨がいま割安なのか、割高なのかがわかります。

なぜビッグマックなのか。世界中でほぼ同じ材料から同じように作られていて、国ごとの価格戦略による歪みが小さいからです。他のグローバル商品はブランド戦略などで国ごとに値付けを変えることが多く、比較に向きません。その点、ビッグマックで測った購買力平価は、本来のやり方、つまり物価上昇率から算出した購買力平価とほぼ同じ結果になります。「ビッグマック指数=購買力平価」と考えて差し支えないでしょう。

では、冒頭の数字で購買力平価を計算してみましょう。アメリカで6.12ドル、日本で500円。両者が同じ値段になる為替レートは、500÷6.12で約82円です。もし1ドル=82円なら、日米のビッグマックはまったく同じ値段で、日本は少しも「安く」ありません。ところが実際のレートは162円。「エコノミスト」の集計でも円の過小評価は5割、つまり本来あるべき水準のほぼ半分まで安く評価されているのです。

1ドル=82円は空想の数字ではありません。2011年には、さらに円高の75円台を実際につけています。当時、日本のビッグマックは海外からむしろ「ちょっと高い」と言われていました。あれから日本の物価が大きく下がったわけではありません。変わったのは、通貨の価値のほうです。つまり「日本が安い」のではなく、「円が安い」から安く見えている。ビッグマック1個の値段くらべが教えてくれる最も大事な事実は、これです。

なぜ円はここまで安くなったのでしょうか。私の答えはシンプルです。

「安いのに、誰も買ってくれないから」

これほど割安なら、本来はもっと注文が殺到するはずです。インバウンドはサービスの輸出ですから、観光客が押し寄せるのと同じ勢いで、海外からビジネスも投資もどっと来て、輸出も伸びるはずなのです。ですが、実際に買いに来ているのはほぼ観光客だけ。円安で輸出額は膨らんでいますが、ドル建てで見た輸出量は増えていません。

理由は2つあります。第一に、実質金利がマイナスであること。政策金利はようやく1%に達しましたが、なおインフレ率を下回ったまま。金利からインフレ率を引いた実質金利がマイナスで、持っているだけで価値が目減りする通貨を、誰が進んで持ちたがるでしょうか。

第二に、日本そのものが評価されていないこと。アメリカの賃金はいまや日本の倍以上です。それなのに日本企業はわざわざ海外で生産し、これほど人件費が安くなった母国に戻ってこない。海外から日本への投資も増えない。「安いのに買われない」状態が、通貨にも企業にも投資にも当てはまっているのです。

(構成=本誌編集部)