年を重ねても、自分らしく前向きに生きるにはどうすればいいのか。コラムニストのジェーン・スーさんは、50代を軽やかに楽しんでいる。人生後半戦を機嫌よく過ごすコツを聞いた。

仕事だと思って自分のいいところを探す

以前の私は「いい年して、容姿ばかり気にするなんて」と、年齢や性別で役割が固定された、旧来型の価値観に取り込まれていた部分がありました。2018年から、40代以上向けの美容誌「美ST」で連載の機会をいただき、美について考えることが増え、そのうちに社会の風潮も変わりました。「なりたい自分になることに、後ろめたさを持つ必要はないし、ストッパーをかけなくてもいい」と、年齢を重ねることも含め、朗らかに自己受容できるようになりました。

これは「老いを気にしない」でも「老いに抗うのをやめた」でもありません。ただ、年齢を重ねることを楽しむ方向にシフトしました。何をしたかというと、鏡をじっくり見て、言動を振り返り、自分のいいところを見つける訓練です。少し嫌な言い方に聞こえるかもしれませんが「自己受容することを、仕事だと思う」感覚です。仕事であれば、限られた時間と予算で目標を達成するため、きちっとリサーチも分析もして行動します。それが、なぜか自分のこととなると、漠然と悩み、手当たり次第に効果が不明なことに手を出しがちです。だからこそ、仕事のように自らを観察し、解決する方法を調べて検証しています。

思うに、若さと若々しさはまた別ものだということを認識することが、年齢と向き合い、機嫌よく生きるためのスタートラインです。若さとは、かつて誰もが持っていた、単純に年齢が低い状態。若々しさとは、年齢にかかわらず、好奇心と行動力を持ち、自分の価値観が凝り固まっていないか疑って更新していける体力と気力があることです。さかのぼれば古代エジプトの壁画にも「最近の若者はダメだ」と記されていたそうですが、かつて自分たちも言われてきた若者批判をすることなく、最新のものにも一度興味を持ち、理解しようとする姿勢が重要です。若々しさとは、絶えず流れ続ける新鮮な水のようなもの。その対極にあるものは、淀みや濁りです。じっと動かずにいれば、いずれ水は淀みます。

ジェーン・スー『ねえ、ろうそく多すぎて誕生日ケーキ燃えてるんだけど』(光文社)
ジェーン・スー『ねえ、ろうそく多すぎて誕生日ケーキ燃えてるんだけど』(光文社)

だからこそ、私自身も「窓を開けて換気する」イメージで、心の新陳代謝を上げていくことを積極的に意識しています。新作映画を観に行ったり、新譜を聴いたり、上下問わず異なる世代や、新しい人と話をする。パーティーや異業種交流会に行くとか、大それたことではなくてよいのです。会社の若い人と積極的に話すとか、流行っているもので少しでも気になるものがあれば、一度見に行ってみるとか、そういうことでも積み重なれば何かが変化していきます。

最近私自身が実践したことで言えば、美容医療を受けに韓国に行ってみました。とても楽しく、実際に行ったからこそ実感できたことがいくつもありました。まず、国の持つエネルギーが日本よりずっと強い。若い世代が行きたくなる気持ちも、中高年世代が美容医療に夢中になる気持ちも、よくわかりました。ほんの少し前は自分の中でも世間の流れとしても「美容医療なんて」と抵抗がありましたが、猛スピードでその垣根が崩れているので、ちょうどいい時期に加齢できました。

ジェーン・スー
Profile
1973年、東京生まれ。コラムニスト、ラジオパーソナリティ。TBSラジオ「ジェーン・スー生活は踊る」、ポッドキャスト番組「ジェーン・スーと堀井美香の『OVER THE SUN』」などのパーソナリティを務める。『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』(幻冬舎文庫)で第31回講談社エッセイ賞を受賞。『ねえ、ろうそく多すぎて誕生日ケーキ燃えてるんだけど』(光文社)など著書多数。

40歳を過ぎた容姿はどう生きてきたかの結果

若さと若々しさが違うように、老いと老けもまた違うと思います。老いとは、肉体や精神が鈍化し、機能が落ちて死に近づいていく現象。老けとは、日常生活を送るうえで少しテンションが下がるような、老いの少し手前の現象。たとえるなら、老いが骨折レベルだとすれば、老けはささくれ、捻挫、打撲くらいのイメージ。生きていくうえで大きな支障はないものの、「でも少し嫌だな」というノイズです。ただ、そのノイズを自らの働きかけひとつで消していける医療や技術がどんどん発達しています。美容医療の発展もそのひとつですね。

逆に言えば、老けが積み重なる中高年は伸びしろしかなく、それが非常に楽しいもの。それは若い頃にはないものです。たとえば、私が20代の頃、肌がプリプリになるということで、コラーゲンが大流行しました。同世代の友人が、高価なフィッシュコラーゲンのサプリを買って飲んだところ、若い肌には栄養が行き渡っていて不足がなかったため、爪が猛スピードで伸びるだけで終わってしまったのです。「高いお金を出して、爪を伸ばしただけで終わった!」とゲラゲラ笑っていましたが、今飲めば、栄養が足りない部分や肌に還元され、違いを実感できるはず。それは、私たちが年齢を重ねたから感じられる楽しさです。

老いや老け自体を一切気にしない方向に持っていくのは、おそらく無理です。もしできる人がいるならば、それは無関心と鈍化です。軽やかに楽しみながら、年齢や老い、老けに向き合っていくには、若さとトレードオフで得たものや積み重ねてきた経験や知識に、自信を持つことが必要です。自信を持てることが特にない方は、おそらくきちんと探していないだけです。若い時代に戻ることはできなくとも、「それでも今の自分は十分に人として魅力的である」という自己受容ができる生き方を、きっとプレジデント読者の皆様はしてこられたと思うので、積極的に見つけて、伸ばしていってほしいです。

大人になればなるほど、自分で自分を肯定するしかありません。みな自分のことに精一杯で、誰もやってくれませんから。それでも自分を褒めるポイントが見つからないなら、容姿はわかりやすく変化を実感しやすいので、美容院を変えて髪型を調える、似合う服を選んでくれるパーソナルスタイリストをお願いするなど、プロの力を借りるのが手っ取り早いです。自分を変える方法が、今はいくらでもあります。あとは、あなたがそれを選ぶかどうかだけ。大人になるほど、持って生まれた素材だけでは勝負できません。40歳を過ぎたら、「容姿はあなたの内面が出てきたもの」です。どれだけ時間やお金、手間をかけて、どう生きてきたか。伸ばせる可能性があるのが40代以上です。あなたの周囲にいる素敵な人は、人知れず自己改善を繰り返しているはずです。

老けを放置していると「不潔」になる

とはいえ、自分の身なりを気にかけることに、抵抗を感じる方もまだまだいらっしゃいます。女性は必要以上に厳しく見た目でジャッジされ続けてきたのに対し、男性は、旧来型の価値観や父権主義の中で、「自分自身の容姿に構うことは女々しいことだ」と、社会から禁止されていたように思います。自分の体の状態をきちんと知ることでさえ、「それは女のやることだ」と言われ、意識が低い方も多い。88歳になる私の父は年齢のわりに清潔感を保つ努力を怠りませんが、それでも食事に関しては無知でした。5年前、さまざまな食べ物を指して、炭水化物が多いのはどれか、タンパク質や脂質を摂れる食品はどれかわかるか聞いてみたところ、驚くほど何も知らなかったのです。誰かが作ってくれた食事を出されるまま食べ続けてきたので、自分ひとりでは何を食べたら健康を保てるのかわからない。「健康食品」には詳しいんですけどね。仕事だけしていればよいとされた世代の男性は、ひとりになってからが大変です。

(構成=後藤香織 撮影=門間新弥)