昼にたんぱく質を摂ると午後の眠気が消える

私が食事で最も重視しているのは「太らない」ことです。何を食べるかより、体重を増やさないことを最優先に考えています。脳神経外科医として、自分が最も気をつけたいのは脳梗塞や脳卒中といった脳血管障害です。後遺症が残りやすく、人生の質を根底から変えてしまうからです。発症リスクを抑えるには動脈硬化を防ぐことが肝心で、そのためにはコレステロール・血糖値・血圧の管理が欠かせません。

菅原道仁さん
菅原道仁 Michihito Sugawara
脳神経外科医。菅原脳神経外科クリニック、菅原クリニック東京脳ドック院長。1970年、埼玉県生まれ。杏林大学医学部卒業後、クモ膜下出血や脳梗塞といった緊急の脳疾患を専門とし、国立国際医療センター、北原脳神経外科病院にて数多くの救急医療現場を経験。『成功の食事法 脳神経外科医の自分を劇的に変える食欲マネジメント』(ポプラ社)など著書多数。

とはいえ、頻繁に血液検査はできません。そこで体重の増減を、血管の健康状態のバロメーターにしています。体重が適正範囲に収まっていればコレステロール値も血圧も比較的安定している。逆に増え始めたら、生活のどこかに問題があるサインです。

ただ、毎回バランスの良い食事を徹底するのは困難です。私の場合、月曜から土曜まで診察が続き、休みは日曜の1日だけ。診察が延びれば昼食を抜くこともあります。食事時間は5分程度で終わることも珍しくありません。「ひと口30回噛んでゆっくり食べることが脳にいい」と患者さんには勧めながら、自分はなかなか実践できていないのが正直なところです。

だからこそ、食事のタイミングに気を配っています。食事の時間配分には、①朝食は必ず摂ること、②食事と食事の間隔を5時間以上空けること、③夕食は就寝の3時間前までに終えること、の3つの基本ルールを設けています。

まず、朝食をしっかり摂ることで脳と体のスイッチが入り、自律神経のリズムが整います。食間を5時間空けるのは、消化を司る自律神経を休ませるためです。また、夕食後すぐは胃腸に血流が集中するため睡眠の質が下がります。仕事が立て込んでいるなどして守れない日も当然あるのですが、そういうときは「翌日で調整すればいい」とすぐに気持ちを切り替えます。

ランチで特に意識しているのが「プロテイン・ブースト」です。脳内で覚醒を司るオレキシンニューロンは、糖分が入ると活動が抑制されて眠気を誘発します。一方、たんぱく質の構成要素であるアミノ酸が入ると、オレキシンニューロンは刺激を受けて覚醒レベルが維持されます。しかも、アミノ酸が存在する環境では、糖によるオレキシン抑制効果そのものが弱まることも確認されています。つまり、昼にしっかりたんぱく質を摂ることは、覚醒シグナルを増やしながら眠気シグナルをブロックする二重の効果があるのです。

血糖値を急上昇させる高GI食品はインスリンを大量分泌させ、その結果、眠気を誘うセロトニンやメラトニンの産生が増えます。これが食後に眠たくなる一因です。たんぱく質が豊富なものを選ぶのは、午後のパフォーマンスと将来の健康への投資だと考えるからです。手軽にたんぱく質を摂取したいときはコンビニのサラダチキン、時間がないときはプロテインドリンクで済ませることもあります。

間食も戦略的に使っています。「チロシン」というアミノ酸は、やる気や集中力を高める脳内物質「ドーパミン」と、覚醒や注意力の維持に不可欠な脳内物質「ノルアドレナリン」の原料です。ゆで卵・チーズ・ナッツなどに豊富に含まれます。血中チロシン濃度は摂取後1〜2時間でピークに達するので、重要な会議やプレゼンの前に摂るのが理想的です。高カカオチョコレート(カカオ含有量70%以上)もBDNF(脳由来神経栄養因子)を上昇させます。BDNFはシナプスの可塑性(神経のつながりを柔軟に変化させる力)を促進する「脳の肥料」で、認知機能に良い影響を与えることが報告されています。

100点で三日坊主より80点を毎日続けよう

もう一つ見落とされがちなのが「ニセモノの空腹」の罠です。ホンモノの空腹は胃が空っぽになって体が本当にエネルギーを必要としている状態で、何を食べても満たされます。一方、ニセモノの空腹は体がエネルギーを必要としていないのに「食べたい」と錯覚している状態で、脳科学では「快楽的空腹」と呼ばれます。

「ホンモノの空腹」と「ニセモノの空腹」の見分け方

快楽的空腹は突発的に、甘いものや脂っこいものへの強い渇望として現れるのが特徴です。ビジネスパーソンにありがちなトリガーは締め切り前のストレス、会議室の差し入れなど食物が目の前にある状況、そして単調な作業の合間の退屈の3つです。このことに気づけるだけでも、無駄な食欲はかなり制御できるでしょう。

(写真=本人提供)