広告費ゼロの裏には熱いファンの力も

それが色濃く表れているのが、フライパンのファンコミュニティの存在だ。岡田さんはIMONOPANの購入者や購入を検討している人向けにLINEオープンチャットも開設。約1400人が参加し、日々料理写真の投稿や質問への回答が交わされているという。

ここでは、商品の率直な意見をユーザーから直接得られるだけでなく、参加者同士のやり取りが生まれる点も大きい。交流を通じて熱量の高いファンが育ち、その存在が口コミや紹介といった形で広がりを後押しする。広告費をかけずに1億円を売り上げてきた背景には、こうしたコミュニティの力もあったともいえる。

「フライパンを使っていると、買った人にしかわからない悩みも出てくる。オープンチャットのような場があれば、そういった悩みも共有されるし、そのやり取りは検討中の人も見られるから参考になる」

困っている人を見かけると、「助けたい」「教えたい」と手を差し伸べる人は少なくない。そうした持ちつ持たれつの関係が積み重なることで、ファン同士の結びつきも強まっていく。

さらに、そのつながりはオフラインにも広がり、銀座の実店舗イベントでは長蛇の列ができるほど来場者が集まったという。

「初対面なのに、待っている間に来てくれた方々がどんどん仲良くなっていって。それを見たときに、『これをやりたかったんだな』と感じました。しんどい時も多いですが、その光景を思い出すと『もう少し頑張ろう』と思えるんです」

商品を超えて、ファン同士がIMONOPANのある日常を共有し、助け合いながら関係を築いていく。IMONOPANが広告に頼らずここまで伸びてきた背景には、岡田さんが作り手として発信を続けるだけでなく、ユーザーの声と交流が生まれる場を整えてきた結果でもある。

相次ぐ問い合わせから、IMONOPANが生まれた

人々を魅了しているIMONOPANだが、現在の仕様にたどり着くまでには、さまざまな試行錯誤があった。

岡田さんは、鋳物製品が「使いこなせる人だけが使うもの」「こだわり抜いた人だけが選ぶもの」になりがちで、市場には天井があると感じていた。「鋳物を誰でも使えるものにしたい」という思いがあった。

当初はその思いを形にするため、シーズニングを自ら施して出荷していた。しかし手間も時間もかかるため、油を塗ったままに顧客に届ける方法を試した。ところが「うまくできない」「これで合っているのか」といった顧客からの問い合わせが相次いだ。

そこで岡田さんが考えたのが、シーズニングをしなくても焦げ付きにくい鋳物のフライパンを作ることだった。岡田さんはさまざまな企業へアポイントを取り、特殊加工を施してくれる業者を探し出した。

「普段の仕事でも、5社ぐらい渡り歩いてようやくできるところを探し当てることとか、いっぱいあるんですよ」

技術そのもの以上に鍵になったのは、岡田さんの「探して、つなぐ」力だった。だからこそ、シーズニング不要を目指す発想が製品として結実した。

「鋳物を誰でも使えるものにしたい」と語った岡田さん
写真提供=岡田鋳物
「鋳物を誰でも使えるものにしたい」と語った岡田さん