家の外ではおとなしそうにしているのに、家族には暴言を吐きモラハラをする人がいる。離婚や男女問題に詳しい弁護士の堀井亜生さんは「家族からモラハラを指摘される人は、その自覚がないことが多い。まずは相手が傷ついていることを受け入れる必要があるが、それが非常に難しい」という――。
※本原稿で挙げる事例は、実際にあった事例を守秘義務とプライバシーに配慮して修正したものです。
スーツケースを手に、ドアから出ていこうとしている女性
写真=iStock.com/Lazy_Bear
※写真はイメージです

「全く心当たりがない」途方に暮れる夫

私の事務所に、A夫さん(45歳・会社員)から相談希望の電話がありました。落ち着いた、どちらかというとおとなしそうな声の男性でした。

「妻と中学生の長男に突然出て行かれてしまって、弁護士から離婚したいという書面が来ました。でも私には全く心当たりがなくて……」と、途方に暮れている様子です。

予約を取り、後日事務所に来ていただくことになりました。

実際に会ってみると、A夫さんは、電話の印象そのままの、痩せたおとなしそうな男性でした。

開口一番、「妻の弁護士から書面が来たんですが、事実無根のことばかりで……」と言いながら、書面を差し出しました。

そこには、「長年にわたるA夫さんのモラハラで、妻と長男は限界になって家を出た。婚姻費用(別居中の生活費)と離婚を求める」という内容が書かれていました。

LINEの暴言に「こんなのは冗談」

A夫さんは最初に自分で弁護士に連絡して、「モラハラは断固していない」と抗議をしたそうです。すると弁護士から、さらにモラハラの証拠が送られてきていました。

その証拠は、LINEのやりとりでした。風邪を引いて家で寝込んでいるという妻に、A夫さんは、

「風邪を引くのは自己管理ができていない証拠ですね」
「家事を休んで妻失格だと思わないのですか?」

という文面を送り、「風邪を引く人の特徴10選 怠惰・無気力・頭が悪い・気の緩み……」といった怪しげなまとめサイトのリンクまで送っていました。

さらに、長男とのLINEでは、高校受験の志望校を相談されて、

「そんな高校に行ったら将来ホームレス確定だ」
「うちの家系の恥だ、今すぐ出て行ってほしい」

と、強く否定する文面を大量に送っていました。

私が「このLINEはあなたが送ったもので間違いないんですか?」と聞くと、A夫さんは「はい」と答えます。

そこで私が率直に、「これはきつい言い方ですね。奥さんにモラハラと言われても仕方ないですよ」と伝えると、A夫さんはポカンとして、「え、こんなの冗談じゃないですか。家族でそんなこと真に受けるなんておかしいですよ」と言うのです。

「冗談だとして、こういうことを言った時に奥さんや息子さんは笑っていましたか?」と聞くと、A夫さんは黙ります。