夏から続く米の品薄状況は、新米が入荷し始めてようやく解消に向かっているが、依然として高値が続いている。日本有数の米の生産地では今、何が起きているのか。ノンフィクション作家の野地秩嘉さんが、新潟県南魚沼市にある笠原農園を直撃した――。
新潟県南魚沼市でコメ作りを33年続けている「笠原農園」の笠原勝彦さん
筆者撮影
新潟県南魚沼市でコメ作りを33年続けている「笠原農園」の笠原勝彦さん

スーパーから米が消えた3つの原因

今年の8月初め、米がスーパーや小売店から消えた。わたし自身、成城石井、東急ストアに米を買いに行ったが、棚に残っていたのは発芽米と玄米が少しだけ。コシヒカリ、あきたこまちといった品種の精米された米はまったく置いてなかった。スマホで米を売っているサイトを見ても、当時は「入荷待ち」の表示ばかりだった。

どうやら全国のスーパー、ドラッグストアでも同じように白米は品薄で、その頃からマスコミは「令和の米騒動」と決めつけて報道を始めた。しかし、米騒動とはいくらなんでも大げさだ。本物の米騒動(1918年)は暴動だった。米の買い占めに怒った庶民は米問屋の打ちこわしをしている。今回はスーパーもドラッグストアも破壊されていない。

今夏に起こった米の品薄の原因はいろいろある。最も大きいのは、全国的な高温障害と水不足によって2023年産米の品質が悪かったことだ。玄米30キロを精米すると例年27キロになるが、23年産は全国的に25~26キロしかない状態だった。

そして、インバウンド客の増加により米の消費量が増えたこと、パン、パスタといった小麦を使った食品の価格が高騰し、割安感のある米に消費がシフトしたこと。例年、夏は前年に収穫された米と新米の端境期となるため需給が逼迫したことだ。

だが、2024年9月26日付の日本農業新聞にはこうある。これがもっとも真髄をついている理由ではないか。

日本有数の名産地・魚沼へ行く

「産地や卸を含め民間が抱える米の在庫量の適正水準を検証すべきだ。6月末の民間在庫量は、産地の適正生産量を設定する上での指標となり、近年の適正水準は180万~200万トンだった。ところが今年、来年はともに150万トン台になる見通し。農水省は、『米の需給は逼迫していない』との考えを示してきたが、民間在庫が少ない中で、今夏のような需要増が重なれば、今後も市場に混乱が生じる」

元々、今年の民間在庫量は例年よりもかなり少なかった。そこにインバウンド客の需要などが増えたから逼迫したのである。そして、来年もまた民間在庫量は少ないとわかっている。来年もまた夏になれば米は品薄になるだろう。

では、私たち消費者はどうすればいいのか。

書斎(と言えるかどうか 狭い)のなかで考えても仕方がない。私は日本一のブランド米の産地、新潟県の魚沼へ行くことにした。ちなみに魚沼とは魚沼市、南魚沼市、十日町市を合わせた稲作地帯を言う。中心は谷川連峰のふもとに広がる魚沼盆地だ。

そのうち魚沼盆地の中央に位置しているのが笠原農園。生産者の笠原勝彦は米・食味鑑定士協会が主催する「米・食味分析鑑定コンクール国際大会」で連続入賞している。全国で7人しか受賞していない名稲会ダイヤモンド褒賞を受けた人だ。生産者としては知られる人である。