もし、食料の輸入が停止されたら。気候変動や国際紛争によるリスクに加え、40%弱の食料自給率の日本にとってそれはすぐさま死活の問題だ。国もそうした不測の事態に備え、昨年「ある野菜の価値を見直すべき」とのお達しを出した。まるで戦中戦後の食糧難時代の話だが、現在進行形の課題だ。フリーランスライターの水野さちえさんがその野菜研究の第一人者で農学博士の山川おさむさんに聞いた――。
サツマイモの葉
写真=iStock.com/oasistrek
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有事にサツマイモ栽培が効果的な理由

焼き芋がおいしい季節だ。自然の甘みを生かしたサツマイモのスイーツは、各社から続々と発売されている。また、2020年から始まった「さつまいも博」などのサツマイモ関連イベントは、今やあらゆる層を集客できる鉄板コンテンツだ。

実は、そんなサツマイモを日本政府は、やや異なる角度から深掘りしている。安全保障面だ。2023年11月、農林水産省は「不測時の食料安全保障の検討について」のなかでこう示した。

・輸入や生産拡大をもってしても国民が必要とする熱量供給の確保が困難な場合に、熱量効率の高い作物への生産転換を図る。

・単位面積当たりの熱量供給量においては、サツマイモが最も高い。
(一方、その労働生産性は米などと比較して低く、また、たんぱく質やビタミンその他の必須栄養素とのバランスや、食生活への影響なども考慮する必要があり、必ずしも熱量効率性のみを追求すれば良いわけではない)

出所:不測時の食料安全保障の検討について(2023年11月、農林水産省 p8~9)

山川さんの解説はこうだ。

「有事がひとごとではなくなった今、生産する農作物を選択する際の最有力候補がサツマイモということです。栄養バランスが優れているだけでなく、栽培も簡単。何より、エネルギー収支が1を上回る、地球環境に優しい農作物なのです」

ここで山川さんについて紹介しておこう。京都大学農学部を卒業後に農林省(当時)に入省し、サツマイモやイチゴの新品種を数多く育成した。焼き芋の「ねっとり派」を生み出したエポックメイキング的存在、“べにはるか”の生みの親でもある。退官後は農業コンサルタントとして、グローバル農業ベンチャー企業CULTAの顧問をつとめたり、最高糖度78度の焼き芋を国内外に販売するSAZANKAの技術指導を行ったりするなど、若い経営者たちの背中を押す日々を送っている。「さつまいも博」の名誉実行委員長としてもおなじみだ。

「べにはるか」の生みの親としても知られる山川さん。
撮影=水野さちえ
「べにはるか」の生みの親としても知られる山川さん。