「魚沼に米がなかったのは初めて」
笠原さんは23歳から33年間、米作りをしている。水田面積の広さは南魚沼市では3番目。笠原農園の年商は2億5000万円、従業員は10人。売り上げの9割はふるさと納税の返礼品としてのそれだ。残りの1割はホームページからの直接販売と米の卸問屋に出したもの。農協には10年前から出していない。
同農園の水田は全部で400枚。1枚(1反)とは300坪で、およそ480キロの米がとれる。ただ、笠原さんのところは400キロほどの収穫に抑えている。それはおいしい米を作るためのこと。
笠原さんは「魚沼に米がなかったのは初めてのこと」と言った。
「今年は魚沼のスーパーでも7月末から8月は米が品薄でした。魚沼で米がないなんてのは僕が米作りしてから初めてのことです。去年までは日本中、米が余っていたんですからね。生産者同士で原因について話していたんですが、高齢化で米作りをやめた農家が増えたのと、コメ卸(問屋)の数が減って在庫が少なくなったことじゃないか、と。僕自身は全国におにぎり屋さんが増えたことも大きいと思ってます」
近所の農家からも買い上げて売っていた
「後継者がいない耕作放棄地の田んぼが日本中に増えてきた。そして、大きな米の商社は別として、日本中にあった中小のコメ卸がつぶれてなくなりつつあるんです。去年まで米の需要は減る一方だったから、コメ卸という商売自体が大変だったんじゃないですか。
農家が減り、民間在庫がなくなったのに外国人のインバウンド需要が増えた。それで品薄になったんですよ。
うちの場合は品薄の時期にも米は確保してました。自分のところで獲れた米の他に近所の農家さんが持っていたのを買いました。仕入れた米はうちで出している米よりも価格は少し安くして売りました」
米が足りないと言われて、2024年の新米価格は上がっている。なかには昨年よりも倍近い価格で売っているスーパーもあるという。笠原さんはどう感じているのか。
「地域によって米の価格は違うので、全般には上がっているかもしれないけれど、上げていない人も大勢いますよ。現に、うちは去年と同じ価格です。それはふるさと納税で出しているから、価格を上げると人気が落ちるんです。今は、うちの米はどのサイトでもトップに上がっていますから、値段は上げられません。スーパーや小売店であれば上げられますけれど、ふるさと納税の返礼品で出している人たちはとても倍の値段にするなんてできないと思います」