一流のリーダーにはどんな特徴があるのか。コンサルタントの山口周さんは「真に優秀なリーダーとは、問題が発生しても自らの手で解決したりしない。大した成果が得られないことをよく知っているからだ」という――。
※本稿は、山口周『クリティカル・ビジネス・パラダイム 社会運動とビジネスの交わるところ』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
論理的に正しいのに、なぜ失敗してしまうのか
社会運動、社会批判という側面を強く持つビジネス、クリティカル・ビジネスを実践するにあたって、そのアクティヴィストには「問題をシステムとして捉える」、いわゆるシステム思考の素養が必要になります。
システム思考とは、問題の発生する原因を局所的なものではなく、自分も含めたシステム全体にあると考え、システム全体を改変することを志向するアプローチです。
どうにもイメージが湧きにくいですね。ではシステム思考と対照的な思考方法である要素還元主義の論理思考がもたらした実例について考えてみましょう。以下は実際に起きた問題です。
●ホームレス保護施設を増やしたら、ホームレスが増加した
●麻薬の取り締まりを強化したら、麻薬犯罪が増加した
●食糧援助を展開したら、飢餓が増加した
●厳しい実刑判決の実施によって、凶悪犯罪が増加した
●職業訓練プログラムの導入によって、失業率が悪化した
これらはなぜ起きるのでしょうか。間違いなく一つ一つの政策や取り組みは論理的に正しく、善意に基づいています。しかし、それらの論理的に正しく、また善意に基づいている施策によってかえって悪い結果がもたらされているのです。
システムへの洞察がなく、症状しか見ていない
クリティカル・ビジネスの実践にあたって、アクティヴィストはもちろん、社会的な問題の解決を目指してイニシアチブを起こすわけですが、ここで注意しなければならないのは、複雑なシステムに関する洞察のないままに、問題の症状への対処を行うと、問題は解決されないばかりか、かえって悪い状況を招きかねないということです。
善意から行われたものであるにもかかわらず、結果的により悪い方向へ状況を変化させてしまうイニシアチブには、三つの共通項があります。
●根本的な問題ではなく、症状へ対処している
●誰の目にも文句なしの策に映る
●短期的には効果がある場合も多い
このようなイニシアチブの発動に対して、当初の成果に多くの関係者は喜びます。しかし、長期的かつ広範囲の因果関係によって短期的な効果が徐々に損なわれていくことになり、やがて意図せざる、大きなマイナスの結果が生み出されます。このような現象の典型例として挙げられるのがDDTです。