「特に買うつもりはなかったのに、お店に行ったらついつい買ってしまう」そんな購買体験を戦略的につくり続けてきたのがセブン‐イレブンだ。セブン&アイ・ホールディングス名誉会長・鈴木敏文氏は「翌日の気象情報からお客様の心理を読み、行動を予測する。そしてお客様がどんな体験を求めるか予想して、仮説を立てることで着想を得る」という――。

※本稿は、鈴木敏文『鈴木敏文のCX(顧客体験)入門』(プレジデント社)の一部を抜粋したものです。

鈴木敏文氏
撮影=市来朋久
鈴木敏文氏

大事なのはコスパよりも「納得感」

もちろん、価格の安さも一つの価値です。商品のもつ物質的・物理的な価値の一つでしょう。もし、同じ商品だったら、消費者は価格の低いほうを選ぶでしょう。

ただ、はっきりいえるのは、安さだけで買うわけではないということです。

リーマン・ショック前後から、消費者の間で特に強まってきたのが「価格と価値の両にらみ」の傾向です。

価格の安さだけに目を向けるのではなく、価格と価値のバランスを重視する。それは、商品の価格そのものに対する信頼度が薄れていることも背景にあるように思います。

景気が低迷すると、どこも安売りや値引き、価格の引き下げを同じように打ち出します。値引きがあらゆるところで行われているため、消費者も値引きに対する感覚がマヒし、売り手のいう「2割引き」は本当に2割引きなのか、そもそも原価はいくらなのか、どこか信頼できずにいる。

だからこそ、いまの日本では価格の安さだけでなく、この価値が得られるなら、この価格は適正だろうとお客様に納得してもらえる「フェアプライス」が重要になっているのです。

「使い切れない」罪悪感

注目すべきは、価格と価値の両にらみ、あるいは、フェアプライスのときの、価値の感じ方です。たとえば、1本200円の大根と半分にカットした120円の大根を並べると、以前は1本丸々のほうがよく売れました。最近は割高な半分のほうを買っていくお客様が増えています。

少子高齢化を背景に1世帯あたりの人数が減って、大根を1本丸々買っても全部使い切れないことがある。食べ物なので、使い切れず、古くなって処分することに、もったいなさや罪悪感を覚えてしまう。

それが半分なら全部使い切れます。1本200円のほうがグラム単価は安く、価格面の経済学的な効用は大きくても、半分で120円のほうに「使い切れる」というコトに満足感を感じ、価値を見出してフェアプライスであると考えるようになってきたのです(図表1)。

【図表1】価格と価値の両にらみ
出所=プレジデント社刊『鈴木敏文のCX(顧客体験)入門