「ネットでクルマが売れるわけない」
会議室の空気は、冷ややかでした。
全国に店舗網をもつある企業。長年その会社を支えてきた主力事業は、時代の変化とともにじわじわと縮んでいました。
打開策としてもち上がったのが、中古車をインターネットで売る新規事業です。
自社サイトと各地のリアル店舗を組み合わせて中古車を売る――構想は描けても、社内の反応は氷のように冷たいものでした。
無理もありません。
クルマは、ネット通販の“鬼門”とされてきました。
一台ごとに状態が違う、いわゆる個体差があります。
しかも数百万円という高単価です。
「写真と説明文だけで、そんな高い買いものをネットでするやつがいるのか」――社内からは、もっともな疑問が次々と飛び出しました。
「そもそも、誰ができるの?」
「ノウハウあるの?」
「うちに、ECサイトなんてつくれるの?」
課題は山積みでした。
中途社員、プロジェクトを背負わされる
そのプロジェクトを背負わされたのは、中途で入社した42歳の一人の担当者でした。
情に厚く、それでいて熱くなりすぎない冷静さを併せもち、誰よりも会社の文化に馴染もうと努力していた人です。
ただ、ひとつ大きな弱点がありました。
中途入社ゆえに、社内に人脈がないのです。
中堅以上の企業で新しい何かを動かすとき、これは想像以上に重い足かせになります。
彼が最初にしたのは、声を張り上げて理想を語ることではありませんでした。
まず、現場に足しげく通いました。
店舗のスタッフ、整備の担当者、一台ずつクルマと向き合っている人たちの輪に入り、何が難しく、何ならできそうかを自分の足と耳で確かめていきました。
そして、たどり着いたのが、それぞれが得意な仕事をするということでした。

