発売直後にリニューアルを求めた真意

絶対価値を追求した例が「金の食パン」(2013年発売)だ。発案者は鈴木氏本人。「お客様はもっと美味しい食パンを求めているはずだ」と開発を指示した。

金の食パンは、スペシャルブレンドの小麦粉、フランス産発酵バター、北海道産生クリームを使用。1斤6枚入りが256円(発売当時)とナショナルブランドの5割以上高い価格にもかかわらず、発売1年目から実に3500万食をという驚異的な実績をあげて、大人気商品になった。

この金の食パンの開発で特筆すべきは、発売当日、鈴木氏が、普通なら開発担当者に「販促に力を入れるように」と指示するところだろうが、こう命じたことだ。

「すぐにリニューアルに着手するように」

なぜ、鈴木氏はリニューアルを指示したのか。

〈鈴木語録〉
美味しいものにはもう1つの意味があって、それは“飽きる”ということである。お客様に“飽きられないもの”をつくるのが商売のように思われがちだが、それは“本当のようなウソ”だ。

お客様が“飽きるほど美味しい商品”を毎日、供給し続けるという不合理なことを行わなければならない。

リニューアルは1年間で3回行われた。真の競争相手は顧客である。そこまで徹底しなければ、顧客の支持は得られないということだろう。

情報の本質を見抜いた故のダイレクトコミュニケーション

セブン‐イレブンにおける強さの秘密の第4は、「仮説・検証」の組織化だ。

セブン‐イレブンの強みは、店舗で働く学生アルバイトの発注業務から、店舗でのさまざまな取り組み、本部での商品開発、そして、経営全体に至るまで、「仮説・検証」のサイクルを組織全体に埋め込み、仕組み化したことにある。つまり、セブン‐イレブンでは、全体、部分、どこを見ても「仮説・検証」のサイクルが回っている。

なぜ、チェーン全体で「仮説・検証」の仕組み化が実現できたのか。

重要な役割を果たしたのが本部と店舗を結ぶオペレーション・フィールド・カウンセラー(OFC=店舗経営相談員)だ。OFCは全国各地の勤務地で各自7~8店舗を担当し、経営の支援に当たる。

社員とのダイレクト・コミュニケーションを重視した鈴木氏は現役時代、OFCを東京の本部に集めて隔週で開催するFC会議において会長講話を行った。会長講話では、フェイス・トゥ・フェイスでトップ自ら、コンビニ経営の基本を繰り返し叩き込み、血肉化させた。

なぜ、ダイレクト・コミュニケーションを大切にしたのか。次のように述べている。

〈鈴木語録〉
トップから役員、部長、担当者へとラインに沿って情報を流せば、伝言ゲームのように、その情報には必ず途中で関わった人の解釈や主観が入り込み、トップが伝えたかった内容とは違う情報となって担当者に届いてしまう可能性があります。

その情報をもとに担当者が行動し、結果、成績が上がらなかったとしても、担当者の責任にはできません。すべての担当者に対して、同じ質と量の情報を提供し、その上で担当者の成績に差が出るならば、それは担当者の能力であり責任となります。

だから私は、会社の方針や情報を伝える場合、それに関わるすべての人を一堂に集め、フェイス・トゥ・フェイスのダイレクト・コミュニケーションで伝えたのです。

FC会議で会長講話を聞いた後、OFCは自分の担当店舗に戻り、スタッフミーティングにおいて、コンビニ経営の基本を自分の言葉に換えて伝える。こうして、鈴木流経営学がチェーンの末端にまで浸透し、徹底されていった。

本稿の冒頭で、セブン‐イレブンと他チェーンの競争力の違いは、退任後も鈴木流経営学が継承されているからであると述べた。それは「仮説・検証」のサイクルが組織に埋め込まれ、仕組み化されていたためだった。

ただ、このところ、セブン‐イレブンの既存店売上高の伸びが他チェーンを下回ることがあるなど、業績がやや低迷しているのも事実だ。

鈴木氏は退任直後に、「これから7~8年は私が定着させたコンビニ経営の基本が継続するだろうが、そこから先が課題だ」と語っていた。セブン‐イレブンが再び活性を取り戻せるかどうかは、鈴木氏が確立した経営の原点を再確認できるかどうかにかかっているといえるだろう。