夫婦が何度も立ち上がった証しの“一杯”
ラーメンがまずかったわけでもない。お客さんが来なかったわけでもない。すべてラーメン以外の理由だった。
二人は一瞬顔を見合わせた。
「確かに……」
翼さんがぽつりと言う。
「3年経って初めて気づきました」
翼さんは今までずっと「自分が悪い」と思っていたという。
「何か悪いことしたのかなって」
すると隣で江里香さんが笑う。
「いいじゃん、今笑えるから」
間髪入れず翼さんが返す。
「いや、早いだろ(笑)」
明るすぎる妻。まだ少し傷が残る夫。だが二人は並んで笑っている。
「一人だったらもしかしたら前のラーメン屋さんに戻っていたかもしれないです。前のラーメン屋さんに頭を下げて、もう一回働かせてもらっていたかもしれない。妻がいなかったら耐えられなかった。一人だったら立ち直れなかったと思います」
そう語る翼さんの横で、江里香さんは何でもないことのように微笑んだ。
開店1時間で閉店。
アメリカ進出の崩壊。
借金。
連続撤退。
普通なら諦めてもおかしくない。それでも夫婦はラーメンをやめなかった。いや、やめられなかったのかもしれない。
九段下の行列の先にある一杯は、ただの煮干しラーメンではない。夫婦が何度も立ち上がった証しそのものなのである。



