1棟50万円、被災者も自治体も負担ゼロ

既に被災地で活用されていて、2023年に発生したトルコ・シリア大地震とモロッコ大地震、2024年の能登半島地震と奥能登豪雨の際にもインスタントハウスを提供してきた。能登ではおよそ300棟が導入されている。

能登半島地震のとき、仮設住宅の入居が始まったのは発災から1カ月を過ぎていた。一方、熊本地震の発災翌日、7月29日朝に現地入りした北川さんは、8月1日から3日間で10棟のインスタントハウスを建てている。

能登の銭湯
写真提供=北川さん
能登の被災地では、銭湯としても活用されている

この圧倒的なスピード感に加えて、驚くべきは被災した自治体も被災者も負担ゼロの設置費用。テントや断熱材などの材料費、施工費、エアコン代などすべて含めて1棟約50万円する費用は、名古屋工業大学を窓口にする「インスタントハウス基金」に寄せられた寄付ですべてまかなわれているのだ。

「うちは明朗会計ですよ。テントが約10万円、断熱が材料費と工賃で約25万円、エアコンが取り付け費用込みで約10万円、ビスなど設置に必要な材料費や照明、屋外防水仕様の延長コードなどを入れて数万円ぐらいですね。能登や今回のような災害対応時には断熱材の素材メーカーさんが協力してくれて、断熱材の費用を少し抑えてもらいました。施工費用は業者さんに適正価格でお支払いしています」

能登半島地震・奥能登豪雨の際に建てられた仮設住宅の設置費用は一戸あたり約1700万円に及ぶ。仮設住宅は風呂、トイレ、台所など水回りも完備されているので単純比較はできないが、「緊急避難先」と考えたとき、インスタントハウスの設置スピードと1棟50万円のコストは、大規模災害時の選択肢としてメリットが大きいのではないだろうか?

取材時、氷川町では水道が復旧しておらず、インスタントハウス利用者のほとんどは公民館や避難所のトイレを使用していた。なかには、「トイレがあるから」という理由で、夜は避難所で寝ているという人もいた。それなら避難所で過ごしたほうが楽なのでは? と思うかもしれないが、それでもインスタントハウスでの滞在を選ぶ理由があるのだ。

ひょこんとたっているインスタントハウス
筆者撮影
コンクリートの上でも設置できる

避難所を3日で出て、車中泊を続けた被災者

インスタントハウスの場合、電力は各自で調達する必要があり、氷川町のインスタントハウスの利用者の多くは、自宅から防水仕様の延長コード(北川さん提供)を引いていた。それができるのも、5メートル×5メートル程度のスペースさえあれば軒先に建てられるインスタントハウスならではだろう。

自宅に住めなくなったAさんは、ほとんど被害を受けなかった兄の自宅横のスペースに建てたインスタントハウスに入居した。

5メートル×5メートル程度のスペースさえあれば軒先に建てられるインスタントハウス
筆者撮影
5メートル×5メートル程度のスペースさえあれば軒先に建てられるインスタントハウス

Aさんの家財道具の搬入がひと通り終わった頃、通りを挟んで向かい側に住む高齢の女性Bさんが訪ねてきた。自宅の敷地内にインスタントハウスを建てている最中で、完成後にどういう内装にしようか見学に来たのだ。

「へー、涼しか! これはええね!」

夫と娘の3人で暮らすBさんの自宅は倒壊を免れ、日中は室内で過ごすことができるものの、次に大きな地震がきたら持ち堪えられるか不安で車中泊を続けていた。地震の直後は避難所に滞在していたが、3日で退去した。

「地震で、夫が膝を痛めてね。それで避難所に行くのが遅くなったから、(居場所が)2階になったけん。人がいっぱいのところに行って、なにかあった時、足が悪いのに2階から逃げ出すってなったら怖いでしょう」

左ひざに湿布と包帯を巻き、歩行器がないと出歩けない状態のBさんの夫は、「車中泊で余計に足が悪くなった」という。それでもインスタントハウスが気になって仕方ないようで、何度も工事の進捗状況を確認しに来ていた。「もうすぐできるみたいですよ」と言うと、ニカッと笑い、「ベッドが入るか、採寸しなきゃならん」と、歩行器を押しながらメジャーを取りに行った。Bさんも「孫が来たら喜ぶわ」と嬉しそうだった。