企業は環境変化に適応できなければ淘汰される。経営コンサルタントの森生明さんは「同じ総合電機メーカーでありながら、ソニーグループと日立製作所が評価を高めた一方、東芝は非上場化へと追い込まれた。3社の明暗を分けた決定的な要因がある」という――。(第1回)

※本稿は、森生明『会社の値段[新版]』(ちくま新書)の一部を再編集したものです。

スイス、シュリーレンにあるソニーのビル
写真=iStock.com/Michael Derrer Fuchs
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ソニーが勝ち取った信頼の価値

2013年にサード・ポイントはソニー株を保有していることを発表し、映画などのエンターテインメント事業を分離して株式上場するように迫りました。

その後、同社はいったんソニー株を売却したものの、2019年6月に再びソニー株を15億ドル保有していると発表し、ソニーに対して上場子会社であるソニーフィナンシャルホールディングス、医療情報サービスのエムスリー、オリンパスなどの株式売却と、画像センサーなど半導体事業の分離・独立(スピンオフ)を迫りました。

いずれのケースでもソニーは分離上場案を拒否、逆に上場子会社だったソニーの金融事業を完全子会社化しコングロマリット化を強化しました。しかし同時にソニーはVAIOパソコン事業の売却、トリニトロン技術で一世を風靡したテレビ事業の縮小を行い、投資家に対する情報開示を増やします。事業間シナジーや長期的な価値創造ストーリーを丁寧に説明したのです。

結果的に株価は上昇し、コングロマリット「ディスカウント」ではなく「プレミアム」状況を生み出し、サード・ポイントを黙らせました。これはアクティビストの経営関与(エンゲージメント)を会社経営陣が真摯に受け止め、逃げずに対話を重ね、経営戦略そのものをブラッシュアップし企業価値向上につなげた好例です。

当時の経営トップ吉田氏は「ソニーは資本市場に育てられた」と述懐しています。

日本市場を活性化する戦略

ちなみに、2020年に親子上場を廃止して完全子会社化した金融事業は、2025年にソニーフィナンシャルグループとして再上場しますが、これはGE(コングロマリットGE)と同じスピンオフの形をとりました。なぜ二度手間なことをしたのかと疑問に思う読者もいるでしょう。

ファイナンス実務のテクニカルな部分に深入りしない方針なので読み飛ばしていただいて構いませんが、以下の2つの理由からだと思われます。

スピンオフ取引が米国同様に非課税取引(新株を受け取った株主がキャピタルゲインに課税されない)になり税務上の障害が取り除かれた。→これも資本取引の活性化を通じて日本の株式市場を米国的な流動性の高いダイナミックなものにする、「資産運用立国日本」政策のひとつです。

② 事業会社と金融会社の企業価値評価方法が異なるため投資家が評価しにくくなって不評だった。
→本記事の企業価値評価は事業会社用のもので金融機関用ではありません。金融機関の企業価値・株価評価は国の金融規制・金利政策や外部ショックの影響を受けやすい難しいものです。

事業会社の企業価値評価の際には、EV/EBITDA倍率、つまり株式時価総額にネット有利子負債を足した企業価値を、金融収支を含まないEBITDAで割り算したもの、で他社比較しますが、この計算だと有利子負債を使って金融資産運用で儲ける金融事業の価値が含まれなくなったり、有利子負債が多くレバレッジがかかりすぎという歪んだ形で反映されてしまったりして、同業他社との比較がしにくくなってしまうのです。