世界的に知られる「ディズニー」の裏側では、激しい経営闘争が繰り広げられてきた。経営コンサルタントの森生明さんは「身内で固めた経営体制が招いた不信感が、外部企業による買収提案を呼び込んだ。この攻防は、上場企業としての経営責任の模範となる事例だ」という――。(第2回)

※本稿は、森生明『会社の値段[新版]』(ちくま新書)の一部を再編集したものです。

フロリダ州オーランドにあるウォルト・ディズニー・ワールドのエントランスアーチゲート
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夢を与える「ディズニー」の意外な暗黒時代

ディズニー社は世界の人々に夢を与える、良きアメリカの象徴というイメージが強いかもしれませんが、実は株式会社としては歴史的にあまり評判がよくありませんでした。ビジネスウイーク誌が毎年行う米国企業の取締役会評価では、長年worst(最悪)の地位にいたのです。

これは、アイズナー氏を中心とする経営体制が、取締役会メンバーも含め20年近くにおよび、ディズニー社と取引関係を持っていたりアイズナー氏の個人的親友で占められていたりしたことによります。このような身内で固めた経営陣に対する不信感が高いせいもあり、ディズニー社は株価が下がるたびに過去に何度も敵対的な企業買収の標的とされてきた、という歴史があります。

2010年10月、「The UP Experience 2010」にて講演するマイケル・アイズナー氏
2010年10月、「The UP Experience 2010」にて講演するマイケル・アイズナー氏(写真=Ed Schipul/CC-BY-SA-2.0/Wikimedia Commons

2004年にも、全米トップのケーブルTV事業会社であるコムキャスト社から敵対的な買収(吸収合併)を申し入れられ、それを拒絶しています。その経緯と双方のやりとりを、米国での敵対的買収の臨場感を味わう意味で公表資料から引用します。

まず、コムキャスト社のブライアン・ロバーツ社長は、ディズニー社のマイケル・アイズナー会長兼CEOへ合併を非公式に打診します。それが拒絶されると、次に正式な合併提案のレターを送り、同時にそれを記者発表して議論を公の場に持ち出しました。そのプレスリリースでは、コムキャスト社の社長は両社の株主に対して次のようなメッセージを送りました。

身内経営が招いた敵対買収の危機

この合併はエンターテインメントとコミュニケーション(放送・通信)業界のニューリーダーを作ることができる、コムキャスト・ディズニー両社の株主にとってまたとない機会です。この取引は大きな株主価値(shareholder value)を創造するのみならず、統合された会社をこの業界において強い競争力ある地位に位置づけることになるでしょう。

レターそのものはアイズナー会長とディズニー社取締役会に対して送られていますが、実際のメッセージはコムキャストとディズニーの全ての株主に対して送られています。大きく違うのは、市場で株を買い進めるのではなく、相手方であるディズニーの株主全員に対して、プレミアム付の比率で株式交換する、と正面から提案している点です。

ディズニーの取締役会は提案を受けるとすぐに外部専門家も交えて内容を検討し、5日後、全員一致でこれを拒絶することを決定しました。その理由は、株式の交換比率がディズニー社株主にとって不利であること、に尽きます。交換比率はプレミアムつきで設定されているのに、これがディズニー株主にとって不利であるとはどういうことでしょうか?