企業は誰のために存在するのか。経営コンサルタントの森生明さんは「巨額の資金を投じて防衛策に奔走するフジ・メディア・ホールディングスの姿勢は、時代遅れの残念な経営体質を示している」という――。(第3回)

※本稿は、森生明『会社の値段[新版]』(ちくま新書)の一部を再編集したものです。

お台場のフジテレビ本社ビル
写真=iStock.com/fatido
※写真はイメージです

「フジテレビを助けたのは間違いだった」

ライブドアとの争いから20年後の2024年末、アジアへの長期投資を得意とする米国ファンド、ダルトン・インベストメンツ(ダルトン)が5%超の大量保有株主として登場します。PBR0.5倍に低迷するフジMHDのガバナンス改革と保有不動産(サンケイビル)価値の顕在化を求めました。

2025年、フジテレビは、大物タレントと女性アナウンサーのトラブル対応の不適切さをきっかけに広告スポンサー離れの経営問題を引き起こし株価が2000円付近まで暴落。ダルトンは株を買い増すとともに要求を強め、2025年6月、定時株主総会での取締役候補者12名の株主提案を行いました。

候補者の中には20年前にライブドアからの買収防衛策をアドバイスしたSBIホールディングス北尾吉孝会長が含まれ「あの時フジテレビを助けたのは間違いだった」といわれる始末でした。

記者の質問に答えるSBIホールディングス(HD)の北尾吉孝会長兼社長=2025年4月17日午後、東京都港区
写真=時事通信フォト
記者の質問に答えるSBIホールディングス(HD)の北尾吉孝会長兼社長=2025年4月17日午後、東京都港区

フジMHDは電通をはじめとする同業仲間・取引先の安定株主を総動員し株主総会で北尾氏らの取締役選任を阻止しましたが、その後もダルトンは株式保有を続けています。村上氏と娘である野村絢のむらあや氏のファンドもこれに参戦、16%の株式を握った上で、放送法上限の33.3%まで買い増す意向表明を行いました。

フジMHDは20年前と同様に防衛策を導入しますが、その対応をダルトンは7月のレターでこう揶揄しています。

暴走する「フジ」と投資家の攻防

FMH(フジメディアHD)は認定放送持株会社ですので、放送法上1人の株主が保有する議決権割合は3分の1を超えることができません(放送法164条)。それにもかかわらず、何を慌てているのでしょうか。

村上世彰氏が33.3%まで買い進めることを示唆したということですが、それだけで、多額の弁護士費用をかけて、15%の株主に対して買収防衛策を導入するなど、みっともない話です。

(中略)FMHの取締役会はこんなことに時間と労力と費用をかけずに、改革アクションプランの実行に注力すべきです。

旧村上ファンド(以下、村上ファンド)はFMHの不動産事業のスピンオフを要求しているということですが、これは私たちが2024年から再三、FMHに要求していることです。FMHは、今回の買収防衛策導入の理由の中で、不動産事業のスピンオフが実施されるとFMHの株主共同の利益が毀損されるおそれがあるとしていますが、そんなことは全くありません。

村上ファンドに不動産事業のスピンオフを主導されることが嫌なのであれば、FMHが主導して不動産事業のスピンオフを実施すればよいだけのことです。そして、株主共同の利益のためには、不動産事業は今スピンオフすべきです。

その後の2025年12月、村上ファンドの33.3%を上限とするTOB趣旨説明書の公表を受け、フジMHDの株価は4000円近くまで上昇しました。