上場企業として見せた「模範的な姿勢」

現経営陣のもとで株価はもっと値上がりさせてみせるからそのまま持っていた方が得ですよ、というのがその理由づけなのですが、そこには経営陣のひとりよがりではなく、市場がそう判断しているという後ろ支えがありました。

コムキャスト社はたしかにプレミアム付の交換比率を提案したのですが、発表直後にコムキャストの株価は下がりディズニーの株価は上がり、交換比率のプレミアムはすでになくなってしまったのです。取締役会が発表した声明は、米国の上場会社が敵対的M&Aに対してとるべき姿勢をよく表しています。

まず彼らは、

取締役会は、現在、そして将来の株主価値創造に邁進し、その目標を達成するかもしれないあらゆる正当な提案を真剣に検討する。

と株主価値が最優先であることを宣言し、

コムキャスト社のものであろうが、他の会社からのものであろうが、提案については全てを真剣に検討し、ディズニー社の株式の有する真の価値を反映するだけのプレミアムが付されている条件であるかを吟味する。

と、コムキャスト社であれどの会社であれ、提案は頭ごなしに拒絶せず、真摯に受け止め検討することを宣言しました。

Macbookの上に電卓と木製ブロックでM&Aの文字
写真=iStock.com/SB
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ディズニー経営陣が掲げた「株主価値」の壁

その上で、

アイズナー会長とその経営陣のリーダーシップの下での事業・財務・制作面での方向性が正しいという自信を持っており、現状の組織と戦略が株主価値を極大化すると取締役会は期待している。ディズニー社の持つ真正な価値と将来利益をフルに反映しない買収提案を受け入れることは、取締役会の最優先事項である株主の利益に資するものではない。

と締めくくっています。何度も繰り返し「株主価値が最優先」ということが強調されていて、公共の利益やメディアの使命といった観点は、全く入っていません。

同日付でコムキャスト社は、

我が社の提案した交換比率は、合併のニュースによって変動した株価分を考慮に入れなければ、引き続きフェアなものである。

との声明を発表し交換比率の変更に応じず、合併話は流れることとなりました。

この攻防にはさらに続きがあります。創業株主ディズニー家を代表するロイ・ディズニー前副会長はアイズナー会長の経営に対して、投資の割に収益があがっていないと不満を持ち、確執が表面化していました。コムキャストからも狙われるようでは心もとないということでしょうか、その1カ月足らず後に開かれたディズニー社の株主総会では、アイズナー会長の取締役再任に反対するキャンペーンが派手に展開されました。