メーカーからインフラ企業に転身した日立

東芝と同じ総合電機・重電機メーカーの日立製作所は良い意味でも悪い意味でも「日の丸モノづくり産業」の代表的存在でした。日立は2000年代半ばのどん底から、川村・中西体制下での事業構造改革を推し進め、10年をかけて重電メーカーからデジタル社会インフラ企業へと変貌を遂げました。

その変化を、企業価値、その算定の重要指標であるEBITDA倍率とPBRを通じて、日立がグローバル市場でのライバルとしてベンチマークしてきたドイツの雄シーメンスの数値と対比して読み解くことができます。(図表1)

【図表】日立とシーメンス
出典=『会社の値段[新版]』(ちくま新書)

中西宏明氏が社長に就任した2010年、日立はリーマン・ショックの影響から立ち直る時期ですが、日立のEBITDA倍率は4.8倍、とかなり低位にありました。私自身の企業価値算定の物差し的相場感覚で、5倍というのは成長性の無い業界でさほど競争優位性のない企業の倍率です。

そこから2010年代後半まで、日立のEBITDA倍率は6〜7倍というモノづくりメーカーの標準的水準で推移しますが、この時期は火力発電事業を三菱重工と統合(後に売却撤退)し、非中核事業(日立工機、日立物流、日立キャピタル、日立マクセル等)を整理していた時期です。

低成長事業を見切り、成長を買う

問題は、同じ時期にシーメンスのEBITDA倍率が10倍以上で推移している点と、企業価値については、日立が2010年の5兆円程度のまま2019年までほぼ横ばいだったのに対し、シーメンスは2010年同水準の6兆円から15兆円と倍以上に成長している、という点です。

のれん価値、無形資産価値の創造力を表すPBRにおいて日立が日本のモノづくり企業に「あるある」な1倍程度をうろついているのに対し、シーメンスはこの間2倍程度で推移していました。

2020年、シーメンスは長期的企業価値向上ビジョンを発表し、再生可能エネルギー事業と医療機器事業を分社化し独立させるグループ再編を行いました。これによりEBITDA倍率を15倍、PBRを3倍の水準に引き上げています。これは成長性の高い、無形資産で価値を創造する会社の典型的な数値です。それに対抗するかのように、日立は大胆な事業ポートフォリオ転換を実施しました。