日本はトランプ大統領率いるアメリカに対してどんな外交を展開すべきか。ICU教授で国際政治学者のスティーブン・R・ナギさんは「トランプは“外交的言語”を語らない。その言葉通りに受け取ることは誤りだが、単なる虚勢として切り捨てることも危険だ」という――。
トランプ米大統領との日米首脳会談を終え、記者団の取材に応じる高市早苗首相=2026年3月19日、ワシントン
写真=共同通信社
トランプ米大統領との日米首脳会談を終え、記者団の取材に応じる高市早苗首相=2026年3月19日、ワシントン

「トランプ語」をどう翻訳すればいいのか

多くの日本人にとってアメリカのトランプ大統領の「言葉」は独特なものに映るに違いない。トランプはいわゆる「外交言語」で語らない。発言は短く、取引的で、誇張に満ちている。言葉通りに受け取ることは致命的な誤りだが、同時に単なる虚勢として切り捨てることも危険だ。高市政権はこのトランプワードにどう向き合うべきか。

「ディールの技法」――交渉哲学の源泉

トランプの世界観の知的源泉は、1987年の自伝的ビジネス書『ザ・アート・オブ・ザ・ディール』にある。

「最良のディールは力の立場から生まれる。最大の力はレバレッジだ」

彼にとって国際政治は不動産取引の延長であり、NATOの負担分担要求、関税の脅し、同盟見直しといった一連の発言はすべて同じディール的な論理から出ている。

とりわけ重要なのが「高い要求から始めよ」という原則だ。

ドナルド・J・トランプ『The Art of the Deal』(Random House Publishing Group)
ドナルド・J・トランプ『The Art of the Deal』(Random House Publishing Group)

「常に極端な要求から始めよ。最終的な妥結点は現実的な数字から始めるよりもはるかに有利になる」

これは行動経済学が「アンカリング(錨打ち)」と呼ぶ認知バイアスを意図的に利用する技法であり、トランプはそれを本能的かつ意図的に駆使する。以前からNATOに対して防衛費の対GDP比4%という目標を掲げるが、最初から4%を本気で要求しているわけではない。最終的な妥結点を従来の2%よりはるかに高い水準に引き上げるための錨打ちなのだ。

東京の政治家や官僚がこの発言を額面通りに受け取れば、認知ゲームの最初の段階ですでに敗北している。この論理を日本に当てはめれば、3.5%要求は絶望的な負担ではなく、2.5〜3%という「中間的着地点」を引き出すための出発点として読むべきなのだ。